『ガンダム』も『鬼滅』も今と全然違う? 人気作の意外な「企画当初の設定」
『機動戦士ガンダム』といえば、アニメ全体に大きな影響を与えたロボットアニメとして知られていますが、初期案の段階では、ロボットではなく宇宙船がメインの物語だったそうです。そして『ガンダム』だけでなく、他の大ヒット作も、全く違う物語として世に出ていた可能性がありました。
作品のキモになるものが最初はいなかった?
今や誰もが知るようなマンガ・アニメでも、企画当初の案は全くの別物だった作品は多数あるようです。なかには初期案のまま公開されていたら、アニメの歴史がまるまる変わっていたのではないかと思えるような重要作品もあります。
例えばロボットアニメの金字塔『機動戦士ガンダム』も、企画当初はだいぶ異なる内容でした。
以前NHK BS1で放送された『ガンダム誕生秘話 完全保存版』によると、企画当初はタイトルすら違っていたそうです。その名も『宇宙戦闘団ガンボーイ』という仮題で、宇宙船「フリーダム・フォートレス」に乗り込む26人の少年少女が異星人と戦うSF人間ドラマでした。さながらジュール・ヴェルヌの『十五少年漂流記』の、「宇宙SFバージョン」のような作品を目指したアニメ企画だったといいます。
そこにはガンダムどころか、大型人型ロボットの姿も見当たりません。いったいどういった経緯で、『ガンボーイ』から『ガンダム』にシフトしていったのでしょうか。
当時を知る元「サンライズ」資料室長の飯塚正夫氏によると、『ガンボーイ』の企画書を提出したところ、広告代理店やテレビ局から「こんな木馬みたいなの(宇宙船フリーダム・フォートレスのこと)おもちゃとして売れないからやっぱりロボット出してくれ」とダメ出しされたとのことでした。やはり当時のスポンサー側としては、子供用のおもちゃとして「ロボット」を売りたいというのが本音だったため、宇宙船がメインの『ガンボーイ』は却下されてしまったのです。
そこで富野由悠季監督のもと、仕方なくロボットアニメとして作り直すことになります。『ガンボーイ』で描こうとしていた「人間ドラマ」の部分は踏襲され、ヒーローが悪者を倒すだけではない、新しい形のロボットアニメ『機動戦士ガンダム』ができあがりました。
正直なところ初期案の『ガンボーイ』も見てみたい気持ちはありますが、『ガンダム』に影響を受けた後のアニメ作品まで、今とは違ったモノになっていたかもしれません。
近年の大ヒット作の筆頭格『鬼滅の刃』も、原作マンガの企画当初は全く設定が異なった作品のひとつです。
現在知られている『鬼滅の刃』は、主人公の竈門炭治郎が鬼になった妹を人間に戻すべく奮闘する物語ですが、当初の主人公は炭治郎ではありません。吾峠先生が「週刊少年ジャンプ」の新人漫画賞に応募した前身作品『過狩り狩り』では、目が見えず片腕を失った剣士が主人公でした。そして「鬼」ではなく「吸血鬼」が、物語の中心的なモチーフとして描かれています。
そんな前身作品をブラッシュアップしてできあがったのが、『鬼滅の刃』のプロトタイプといわれている『鬼殺の流』です。しかし、「鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録」によると、同作は連載会議で落選してしまい、当時の担当編集者から「もっと普通のキャラクターはいませんか?」と主人公の変更を提案されます。その際に吾峠先生から、脇役として考えていたという「炭売りの少年」の存在を聞かされ、その少年を主人公にして物語を再構築した結果、今の形の『鬼滅の刃』になりました。
企画段階だけではなく、作品が始まってから方針転換した例も多々あり、なかでも有名なのは高橋留美子先生の『うる星やつら』に登場するラムちゃんにまつわる裏話です。すっかり同作のメインヒロインといったイメージですが、当初ラムちゃんは原作第1話だけに登場するゲストキャラの予定でした。あくまでも、諸星あたるを中心とした群像劇になる予定だったそうです。
朝日新聞社が運営するサイト「好書好日」では、2022年4月に高橋先生のインタビューが掲載されています。高橋先生は「当初、『うる星やつら』は5話連載で、あたるを中心とした群像劇になる予定の同作はラムは第1話だけに登場する予定でしたが、第3話でラムをまた出せると気づき、そこからあたる、しのぶ、ラムの三角関係が5話連載の軸になりました。」と語っていました。そして、長期連載化してからは、「連載中に自然とラムがヒロインの立ち位置になってきた」とのことです。
今は誰もが知る作品にも、さまざまな紆余曲折がありました。作る側の苦悩は察するに余りあるものがありますが、最初の予定のままの作品だったらどうなっていたのか、ちょっとしたロマンを感じてしまいます。
(ハララ書房)