『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』BS12で放送 シャアが最も輝き、堕ちていく物語へ
「ガンダム」シリーズは、シャアが堕ちていく物語
ゴーグルで瞳を隠すようになったシャアことキャスバルは、本音は胸の奥に秘め、いつも穏やかな口調でしゃべります。まっすぐに育っていれば、優秀な軍人か政治家になっていたことでしょう。人を惹きつけるカリスマ性の持ち主でした。それゆえシャアのその後の人生を振り返ると悲しさを覚えます。
ザビ家への復讐を『機動戦士ガンダム』の最終話で果たしたシャアは、続編『Z ガンダム』ではライバルだったアムロと共闘することになります。復讐という人生の目標を終えてしまい、シャアの迷走が続きます。『逆襲のシャア』では、地球人類を滅亡させようという凶行に至ります。
富野監督が描く「ガンダム」シリーズは、ハイスペック男子のシャアがどこまでも堕ちていく物語だとも言えます。でも、そんなシャアを周囲の女性たちは放っておくことができず、彼女たちもまた悲劇に呑み込まれてしまいます。「ガンダム」の世界には、暗い魅力が秘められています。
シャアの青春を描いた『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』は、シャアがいちばん輝いていた時代の物語です。パイロットとしてシャアの能力を凌駕するようになるアムロはまだ幼く、ニュータイプには目覚めていません。シリーズ後半には、シャアの孤独さを癒してくれる唯一の少女ララァ・スンとの出会いも待っています。復讐や戦い以外に生きる喜びを見つけることができていたら、シャアの人生はまったく違うものになっていたことでしょう。
戦場にしか居場所を見出せないオールドタイプの哀しみ
シャア以外にも、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』には陰影の深いキャラクターが次々と登場します。その筆頭と言えるのが、『機動戦士ガンダム』でアムロに戦いの厳しさを教える、ジオン軍きっての猛将ランバ・ラルです。若き日のランバ・ラルが、シリーズ前半は大いに活躍します。酒場の歌姫だったハモンが惚れるのも分かる、男っぷりのよさです。人格面でも優れたランバ・ラルが、敵対していたザビ家の軍門に降るいきさつは、せつないものがあります。
策略大好きなザビ家のなかにあって、三男のドズル・ザビだけは曲がったことが大嫌いな男気のある人物です。士官学校の生徒だったゼナとの間にミネバが生まれるエピソードなどは、ドズルの人間味を感じさせます。
惜しむべきは、コロニー落としがどんなに非道な行為であるかを認識できないまま、遂行してしまったことでしょう。自分が犯した罪を正当化するために、ドズルもまた戦いの世界に盲進することになります。
中国の奇書『三国志』もそうですが、悪役や敵役が魅力的な物語ほど、多くの人たちに深く、長く愛され続けます。シャア、ランバ・ラル、ドズルらの知られざる一面にスポットライトを当てた『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を観ることで、『機動戦士ガンダム』がより面白く感じられるのではないでしょうか。
(長野辰次)