『もののけ姫』と「ハンセン病患者」 宮崎駿監督はなにを想い「病者」を描いたのか
2016年、宮崎駿監督は公の場で『もののけ姫』にハンセン病患者と思われる人びとを登場させた理由について語りました。監督が『もののけ姫』の登場人物たちに込めた想いとは、一体どんなものだったのでしょうか。
『もののけ姫』にハンセン病患者を思わせる人びとが登場する理由とは?

1997年に公開された映画『もののけ姫』には、「病者」と呼称される人びとが登場します。身体中に包帯を巻きつけ、他の人びととは別の場所で暮らす彼らの症状は、ハンセン病を彷彿とさせるものでした。宮崎駿監督は、どのような想いで彼らを登場させたのでしょうか。2016年1月に行われた「ハンセン病の歴史を語る 人類遺産世界会議」での講演にて、宮崎駿監督がその胸の内を語っています。
そもそも「ハンセン病」とは、「らい菌」が引き起こす皮膚や神経の慢性疾患のことです。潜伏期間は5年ほどで、なかには20年かけ症状が進む場合もあります。不治の病と考えられていたこと、遺伝病と誤解されていたことなどから、患者たちが長く差別と偏見を受けてきた病気でした。
現代では特効薬が開発され、完治する病気といわれています。しかし有史以来、患者たちは何世紀にもわたり「業病」「呪い」といったひどい言葉を浴びせられてきました。
宮崎駿監督は『もののけ姫』の企画を構想していた当時、作品の構成を考えながら散歩していたところ、自宅から徒歩15分ほどのところにある「全生園(ぜんしょうえん)」にたどり着いたそうです。「全生園」とは、東京都東村山市にあるハンセン病療養所です。日本全国には13か所の国立ハンセン病療養所があり、宮崎駿監督はたまたまそのうちのひとつにたどり着いたのでした。
「全生園」を訪れた宮崎駿監督はその後、何度も施設に足を運んだそうです。園にはハンセン病資料館が隣接されており、またハンセン病患者のための納骨堂があったといいます。彼らの多くは、故郷に戻ることのないまま生涯を終えたのです。
このように何度も「全生園」を訪れるなかで、宮崎駿監督は「おろそかに生きてはいけない。作品をどのように描くか、真正面からきちんとやらなければならない」と感じたそうです。そうした思いから、タタラ場に登場する「病者」の症状や境遇をあえてごまかさず、実際のハンセン病患者を思わせる姿として描いたのでした。
『もののけ姫』の作中で「病者」と呼ばれる人びとは、住民たちとは別の敷地内で生活しています。全身に包帯を巻きながら、エボシ御前に依頼されて石火矢と呼ばれる軽量の銃を改良したり、鉄を打ったりする姿も描かれています。牛飼いの男たちやタタラを踏む女性たちとは違った仕事をしていますが、社会の中でしっかりと自分たちの地位を確立しているのです。