『葬送のフリーレン』早くもタイトル回収に「不穏」 今夜放送の8話に「物騒」「全然穏やかじゃない」
2023年10月27日(金)に放送される第8話で、アニメ『葬送のフリーレン』がひとつの山場を迎えようとしています。さらに物語が盛り上がることが予想されるなか、あらためて注目したいのが、タイトルの「葬送」という言葉が持つ意味です。
「葬送」の意味はひとつではなかった
TVアニメ『葬送のフリーレン』は、魔王を倒すまでの物語ではなく、魔王討伐後という斬新な時系列から物語がつむがれていく異色の物語です。2023年10月27日(金)に放送される第8話のサブタイトルはずばり「葬送のフリーレン」であり、アニメファンが大好きないわゆる「タイトル回収」の回になりそうです。しかし改めて考えてみると、タイトルにある「葬送」にはいったいどのような意味が込められているのでしょうか。
物語の主人公であるフリーレンは、かつて勇者たちと魔王を討伐した魔法使いです。人間よりもずっと寿命が長いエルフ族であるがゆえに、先にあの世へ旅立つ仲間たちをつねに「送り出す立場」にあります。実際に物語序盤では勇者ヒンメルの死を見送り、それから20年後には隠居した僧侶ハイターのもとを訪れ、彼が亡くなるまでずっと側で生活していました。
死者を葬り、見送る姿はまさしく「葬送」であり、視聴者のなかには、この調子でほかの人びとの余生を見届けていく、エルフ主人公ならではの「お見送り」の物語になると思っていた人も少なくないはずです。
ところが第8話の予告映像で、「葬送」の真の意味がほのめかされました。各キャラクターのセリフが次々と飛び出したあとに「歴史上で最も多くの魔族を葬り去った魔法使い」という台詞が登場し、つぎの瞬間「葬送のフリーレン」と次回のサブタイトルが表示されたのです。
そもそも「葬送」とは、死者を見送ることを意味します。自らの手で魔族を葬り、あの世に送っていくこともまた「葬送」と呼びうるでしょう。とはいえ、フリーレンが「多くの魔族を葬り去った魔法使い」ゆえに「葬送のフリーレン」というふたつ名で呼ばれていることになると、とたんに物騒な雰囲気がただよい始めます。
実際、予告が公開された直後のネット上には「葬送ってそういうこと?」「てっきり亡き仲間たちを弔う意味だと思っていたら、まさかの異名だったの!?」などと困惑の声が広がっていました。
●さらに浮かび上がるもうひとつの「意味」
ところで「魔族を葬り去った魔法使い」うんぬんを抜きにしても、同作のタイトルに「葬送」というワードが使われているのは、よく考えてみると不思議な気もします。ものすごく単純に見てしまえば、ヒンメルやハイターを送り出した時点で「葬送」は済んでいるようにも思えるでしょう。
しかも物語の中心として描かれているのは、かつて勇者と冒険した道のりをもう一度巡りなおす郷愁の旅です。「魂の眠る地(オレオール)」と呼ばれる場所が旅の目的地とはいえ、儀式としての勇者たちへの「葬送」は、物語の序盤で終わっていることになります。
ただフリーレンが送り出すのは、勇者を始めとした人びとだけではなく、魔王との戦いが続いた過去そのもの……と解釈することもできます。一番わかりやすい例は、過去に倒し損ねた「クヴァール」という魔族を、フリーレンと弟子のフェルンが80年越しに討伐するエピソードではないでしょうか。
クヴァールは魔王軍のなかでも屈指の魔法使いとして恐れられている、恐ろしい魔族です。「人を殺す魔法(ゾルトラーク)」といういかにも物騒な魔法を開発した魔族でもあり、かつてのフリーレンたちは太刀打ちできなかったため、一時的にクヴァールを封印しました。
そして80年ぶりにその封印が解け、再びクヴァールと対峙する展開になります。さっそくお得意の「人を殺す魔法」を放つクヴァールですが、それを目の当たりにしたフェルンは「フリーレン様、これはどういうことですか?」「……今のは一般攻撃魔法です」と驚いた様子を見せていました。
どうやら80年という年月は人間たちにとっては長すぎる時間だったらしく、「人を殺す魔法」という恐ろしげな魔法もすっかり研究し尽くされ、いまでは「一般攻撃魔法」と呼ばれていたのです。結果、現代の一般的な防御魔法に攻撃を防がれ、クヴァールはあっさりと倒されてしまいました。
物語のなかでは恐ろしい存在として描かれている魔族ですが、魔王が討伐されて平和になった世界では、「人を殺す魔法」を使う恐ろしい魔族でさえも過去の遺物でしかありません。もしかしたらフリーレンが送り出すのは、そういった未来に持ち込むべきではない争いの過去全般なのではないでしょうか。
そう考えると亡くなった勇者を送り出すのも魔族を葬り去るのも、少し似ている気がします。ただすべての過去をなかったことにするわけではなく、作中の勇者ヒンメルの言葉を借りれば、輝かしい思い出を未来に連れていくことが、フリーレンにとっての「葬送」なのかもしれません。
(ハララ書房)