実現できず結果オーライ? 『ドラクエ』に込められた「涙ぐましい創意工夫」
近年のゲームの技術の進歩は目覚ましく、今では3Dのキャラクターがサクサクと動くのは当たり前です。しかし、ファミコンの時代は低容量という制約があり、そんななか発売された初代『ドラクエ』にはさまざまな工夫が施されていました。
堀井雄二氏がファミコンにもたらしたRPGの世界

1986年5月に発売されたファミコンソフト『ドラゴンクエスト』はその後シリーズ化されて、日本を代表するRPGとなりました。
最近の作品では3D化されたキャラクターがサクサク動き、インターネットを介してマルチプレイが可能になるなど、技術の飛躍的な進歩に驚かされます。
しかし、初代『ドラクエ』の制作前、堀井雄二氏は容量の少ないファミコンでRPGを制作するのは不可能だと言われたことがあるそうです。
そこで本記事では、制約の多いファミコンで、初代『ドラクエ』を完成させるに至った苦労話を紹介します。
任天堂の公式サイト内では、当時社長だった岩田聡氏が各メーカーのクリエイターにインタビューした企画「社長が訊く」が公開されています。2009年7月3日に公開された『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』の回では、「ドラクエ」の生みの親であるゲームデザイナーの堀井雄二氏が、「ドラクエ」誕生について語っていました。
そのなかで、当時PCゲームの『ウルティマ』や『ウィザードリィ』といったRPGにハマっていた堀井氏は、一方で手軽に遊べない敷居の高さを感じていたことを明かしています。
そこでRPGの面白さを幅広く伝えるべく制作に臨んだのが、初代『ドラクエ』でした。しかし、当時のファミコンソフトの小さな容量でRPGを作るのは「絶対にムリ」と言われたそうです。
初代『ドラクエ』の容量はたったの64KBです。PS4版『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて S』の容量が約40GBだとすると、その約65万分の1になります。
それでも諦めず、できるだけRPGの面白い要素を詰め込み、ムダな容量を極力省いて生まれたのが初代『ドラクエ』でした。
その工夫のひとつが、キャラクターのグラフィック表現です。初代『ドラクエ』の主人公は常に正面を向いていて、横に移動するときはカニ歩きをしているように見えます。要するに、横や後ろを向いたキャラのグラフィックを省くことで容量を削減を図ったのです。
それに伴い、NPCに話しかけるときも人のいる方向を向けないため、「はなす」のコマンドを選んだあと「きた」「みなみ」「にし」「ひがし」と方角を選ぶシステムになっています。
今となっては手間に感じる仕様ですが、少しでもムダな容量を削るための苦肉の策だったのです。