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【インタビュー】巨匠・池上遼一氏の画集が刊行「格好のいい男、素晴らしい美女描きたい」

昭和43(1968)年に『追跡者』で商業誌デビューしてから50年余り。漫画家の池上遼一さんは、他の追随を許さぬ圧倒的な画力で、常にマンガ界の第一線で活躍し続けてきました。その画業の集大成となる画集が2019年11月30日に刊行されるにあたり、ご自身の作品について語っていただきました。

「理想の日本人像」の造形に、ブルース・リーの影響も

『クライングフリーマン』(原作/小池一夫)の原画を使った『池上遼一 Art Works 男編&女編』(玄光社)のBOXデザイン。池上遼一さんが「気に入っている」と語る顔の描写に注目。『池上遼一 Art Works』(玄光社)〈男編〉より (C)池上遼一、(C)小池一夫、(C)玄光社
『クライングフリーマン』(原作/小池一夫)の原画を使った『池上遼一 Art Works 男編&女編』(玄光社)のBOXデザイン。池上遼一さんが「気に入っている」と語る顔の描写に注目。『池上遼一 Art Works』(玄光社)〈男編〉より (C)池上遼一、(C)小池一夫、(C)玄光社

 劇画界随一の画力」と名高いマンガ家の池上遼一さんが、50年をこえる画業の集大成となる画集『池上遼一 Art Works 男編&女編』(玄光社)を完成させました。2019年11月30日(土)に全国発売される同画集にも収録されている『クライングフリーマン』(原作/小池一夫)や『サンクチュアリ』(原作/史村 翔)など、自身の作品について語ってもらいました。

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――集大成となる画集『池上遼一 Art Works 男編&女編』は、〈男編〉と〈女編〉の2冊組ですね。

池上遼一さん(以下、敬称略) 僕は「格好のいい男」、「素晴らしい美女」を描きたいと思い、劇画を描き続けてきました。この画集は、僕が今までに描いた作品を〈男編〉と〈女編〉の2冊に分けて掲載し、BOXに収めた特別仕様です。このBOXのデザインには、僕の代表作のひとつ『クライングフリーマン』(原作/小池一夫)の絵が使われています。

 この絵は、キャラクターの顔がよく描けていて、自分でもすごく気に入っているんです。特に、憂いを帯びた女の表情に注目してほしいですね。男の顔もそうです。何か悲しみを抱えている内面が表情に出てこないと、ただ男前というだけではウケないんですよ。

――「格好のいい男」を描くようになったきっかけをお聞かせ下さい。

池上 先日お亡くなりになられましたが、原作者の小池一夫先生との出会いが、僕のターニング・ポイントになりました。『I・餓男(アイウエオボーイ)』から始まって、『傷追い人』、『クライングフリーマン』(以上、原作/小池一夫)など、小池先生には多くの作品の原作をいただきましたが、特に僕の思い出に残っているのが『I・餓男(アイウエオボーイ)』です。

『I・餓男(アイウエオボーイ)』は、今までにないシリアスなストーリーのため、原作どおりに描くためには絵をリアルにしなければなりませんでした。同作の主人公、暮海猛夫(くれみたけお)は、「強い男」でありながら「知的な感じのする男」。僕が描く「いい男」のキャラクターが、自分の中で「決まった」と感じましたね。

 以降、『サンクチュアリ』原作者の史村翔先生をはじめ、さまざまな先生から原作をいただいて「いい男」を描いてきましたが、すべて『I・餓男(アイウエオボーイ)』からの流れだと思います。日本人として海外へ出ても遜色のない「大和の男」を、ずっと描き続けているんです。

――池上遼一さんが描く「いい男」は、男性読者が理想とするたくましい体型です。

池上 僕は、実際にはいないような理想の日本人像を描いています。人体のプロポーション(比率)は、アメリカン・コミックスの巨匠、ニール・アダムスの造形を参考にデフォルメ(誇張)し、そこに日本人らしさをプラスしているのです。ブルース・リーの影響も大きいですね。彼を初めて見た時、「東洋人に、こんな格好いい奴いたのか」という驚きがありました。ただ強いだけではなく、華やかな筋肉美を持つ男を描いています。

――キャラクターの筋肉を描くために、ボディービルダー向けの雑誌や解剖学の本まで読まれたそうですね。

池上 そうですね。でも、筋肉美を誇る男らしいキャラクターであっても、どこかにナイーブさを秘めた男の方が僕の感性に合うようです。『クライングフリーマン』は、殺人後に「涙」を流す暗殺者、フリーマンが主人公。鍛え上げた肉体と、ナイーブな性格というコントラストがいいんです。初めて原作を読んだ時、小池一夫先生のユニークな設定に惹かれました。

 今回の画集のBOXには、ナイフを手にしたフリーマンが描かれています。鋭く光るナイフの描写によって、フリーマンの心象をうまく表現できる。こうした小物の設定まで、小池先生は緻密に考えていらしたんですね。

【画像】『池上遼一 Art Works』で描かれる、圧倒的魅力の男女たち(16枚)

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