黒歴史?理由を知れば意外と納得? アニメ化で賛否が起こった「原作改変」
名作の「黒歴史」も?
●『鋼の錬金術師』(2003年)
『鋼の錬金術師』は、「第1回みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞」「第15回手塚治虫文化賞」などを受賞した荒川弘先生による名作マンガが原作です。本作が初めてTVアニメ化された2003年10月は原作も連載中だったため、TVアニメではアニメオリジナルストーリーで改変が行われました。特に、いわゆる「ロゼ事件」は、今もファンの間で語り継がれるエピソードです。
TVアニメの第1話から登場したロゼは、リオールという街の新興宗教・レト教の熱心な信者で、暴動によりレト教が崩壊して心の拠り所を失ったところを、主人公エドワード・エルリックにより勇気づけられた女性です。
原作よりも出番が大幅に増えたロゼは、作中でかなりひどい体験をしています。TVアニメ第14話で、暴動が続くリオールが描かれ、介入してきた軍人から街の子供を守る勇敢なロゼが描かれました。ところが、第40話で再び登場した彼女は、虚ろな表情で父親が不明の赤ん坊を抱いています。
さらにロゼは中央軍に連行されたのち、ショックで声を失ったことも明らかになりました。彼女の状態から察するに、14話の登場後に中央軍に連行され暴行を受けたことが予想されます。
原作改変による衝撃的な鬱展開に「アニオリが好評ななかで、今回の場合は黒歴史」「土曜の夕方からすごい話をやるんだな…」などと放送当時、ファンから驚きの声があがっていました。
これには荒川先生も反応し、『アニメディア』2004年10月号のインタビューで「私が目指す少年マンガにおける娯楽の範囲から逸脱していた」「あの描写は通すべきではなかった」などと、複雑な心境を語っています。作者自らが心境を語ったことも相まって、「ロゼ事件」として語り継がれることとなりました。
話題を呼んだ改変となりましたが、「これはこれであり」などと、一概に否定すべきではないという視聴者の反応もしばしば見られました。なお、『鋼の錬金術師』は原作の連載終了が近づいた2009年には『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』として、原作に沿った内容で1話より再度アニメ化されています。
作者や制作側、時代背景など、さまざまな事情を考慮してアニメの改変が加えられることは多々あります。なかにはアニメオリジナルの描写が重要な役割を持つ場合もあるでしょう。改変の裏側を考えてみると、好きなアニメにより深みが増すかもしれません。
(LUIS FIELD)