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『鬼太郎』を裏切り続けて55年 「ねずみ男」はなぜ見捨てられないのか モデルの人物も実在?

ねずみ男には、モデルになった人物がいた

ねずみ男の活躍や名言、原作者や声優へのインタビューなどを収録した、『ゲゲゲの鬼太郎  CHARACTER BOOK ねずみ男大全』(文藝春秋)
ねずみ男の活躍や名言、原作者や声優へのインタビューなどを収録した、『ゲゲゲの鬼太郎 CHARACTER BOOK ねずみ男大全』(文藝春秋)

 ねずみ男にはモデルになった実在の人物がいます。水木しげる先生の先輩にあたる、漫画家の梅田栄太郎さんです。『ゲゲゲの鬼太郎』がヒットするまではとてつもなくビンボーだったことが知られる水木先生ですが、同業者の梅田さんの生活も大変でした。

 水木先生の『ビビビの貧乏時代』に収録された短編漫画『貸本末期の紳士たち』に、当時のことが描かれています。水木先生たちのマンガは、貸本屋で人気を集めていたのですが、1960年代になると貸本屋が次々と潰れ、貸本マンガを量産していた出版社も倒産。原稿料がもらえない日々が続きました。

 貸本マンガを中心にしていた漫画家たちにとっては、受難の時期でした。そんな状況下で、梅田さんはいろんなお金もうけに手を出しては、失敗していたとのこと。それでもタフに生き続ける梅田さんを、水木先生は好ましく感じていたようです。

 鬼太郎が決してねずみ男を見捨てないのは、ビンボー時代をともに過ごした先輩漫画家へのリスペクトがあってのことだったのです。

歴史の影や社会の歪みを感じさせる水木ワールド

 1980年代のマンガ実写化の先駆的番組だった「月曜ドラマランド」(フジテレビ系)で放映された実写ドラマ『ゲゲゲの鬼太郎』では竹中直人さん、実写映画『ゲゲゲの鬼太郎』(2007年)と続編『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』(2008年)では大泉洋さんが、ねずみ男を演じています。どちらもハマり役と評判になりました。ねずみ男は、俳優としても演じがいがあるようです。

 第6期のねずみ男役に続き、『ゲゲゲの謎』にもベテラン声優の古川登志夫さんが出演しています。古川さんは第3期のねずみ男を演じた富山敬さんの大ファンで、第5期のオーディションを受けたものの落選。第6期でようやく念願のねずみ男役を手に入れました。『機動戦士ガンダム』(テレビ朝日系)のカイ・シデン、『うる星やつら』(フジテレビ系)の諸星あたるなど、お調子ものを演じればピカイチな古川さんですが、ねずみ男役はかなりの思い入れがあったことがわかります。

 水木先生は戦争体験者で、南方の戦場で妖怪以上に恐ろしい人間の姿を見てきました。『ゲゲゲの謎』でも、戦時中の悲惨なエピソードが語られています。実は古川さんも一番上のお兄さんが出征し、フィリピン沖で亡くなったそうです。歴史の影や社会の歪みを感じさせるのも、水木ワールドの特徴でしょう。

 水木先生が生み出し、古川さんら歴代の声優たちが命を吹き込んできたねずみ男には、半妖怪としての生い立ちやビンボー生活には屈しないという、バイタリティーとユーモラスさがあります。ビビビのねずみ男は、『ゲゲゲの鬼太郎』のもう一人の主人公だと言っても過言ではありません。

(長野辰次)

【画像】「お調子者」に磨きがかかる? 歴代の「ねずみ男」たち(7枚)

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