劇場アニメ『幸福路のチー』のソン監督、人生に向き合い「台湾の日々」を映像化
台湾発のアニメーション作品『幸福路のチー』が2019年11月29日より公開されます。1人の少女の半生を描いた物語は世界中から共感の声を集め、数々の映画祭のアニメーション部門で賞に輝きました。11月9日に行われた先行上映会では、ソン・シンイン監督が『幸福路のチー』の公開秘話を語りました。
「自分は特別な人生体験をしていない」と思っていたが…

台湾発の劇場アニメ『幸福路のチー』が、まもなく2019年11月29日(金)に公開されます。アニメ不毛の地とさえ呼ばれていた台湾映画界に突如誕生した傑作アニメーションは、世界中の映画祭で観客の共感を集めています。
本作は日本公開を盛り上げソン監督を応援しようと、日本国内でクラウドファンディングが実施されました。その参加者を招待したクローズドな先行上映会が11月9日(土)に開催され、同作を手掛けたソン・シンイン監督がティーチインに登壇しました。
1975年に台北で生まれたソン監督。『幸福路のチー』の主人公、チーも1975年生まれなので、まさにチーの物語は、監督自身の半生がモデルになっているといえます。
ソン監督は京都大学で映画理論を学び、その後2007年からアメリカのコロンビア・カレッジ・シカゴで脚本や監督の勉強を重ねました。当時フィクションが専攻だった監督は、「ストーリーは妄想で作るものだ」と思っていましたが、当時の先生に「優れた物語を書きたいのなら、自分の声を聞きなさい。自分の体験を書いてみなさい。」と言われます。

先生の言葉に応えるように、自分の人生をつづり始めた監督。当初は「私は特別な人生体験をしてきたわけではない」と思っていましたが、当時クラスメイトの間で話題になっていた、イランのマルジャン・サトラピ監督の『ペルセポリス』(イランの歴史に翻弄された、少女の物語)を観て、「私が過ごした台湾の日々も、もしかしたら人びとを感動させられるかもしれない」と考えたそうです。
2010年に台湾に帰国後、完成した脚本を実写映画で制作するために奔走しました。しかし、ある知人からのアドバイスと、アニメーションの手法にインスパイアされた監督は、初めてのアニメーション制作に踏み切ることに。独自のアニメーション産業がない台湾での制作は、多くの人びとからの反対意見もありました。
2013年に前身となる短編アニメーション『幸福路上』が完成。「毎日熱い議論を交わした関係で、今でも友人として交流を続けています」と、ソン監督は言います。本作は第15回台北電影節(台北映画祭)の台北電影奨で、最優秀アニメーション賞を受賞しました。