『ガンダム』劇場版で省略された14話「時間よ、とまれ」 富野監督自ら書いた「真理」とは
アムロを応援するジオン兵?
このとき、ホワイトベースにはマチルダ中尉のミデアが補給のために来訪していましたが、離脱した際にジオンに発見されてしまいました。ミデアの援護のために出撃したガンダムに対し、ジオンの兵たちはワッパと呼ばれる小型のホバー・バイクで接近し、時限爆弾を仕掛けてガンダムを破壊するという無謀極まる作戦を実行に移しました。
森の中でザクを発見したアムロでしたが、木々が邪魔で撃破することができません。そこにワッパが襲来しますが、アムロは出会い頭にバズーカを放ち、1機を撃墜します。しかしほぼ生身の兵士を殺してしまったことに気付いたアムロの手は震えだしてしまうのです。
ひとつ前の話である第13話「再会、母よ…」で、アムロは追い詰められた挙句にジオン兵を拳銃で射殺しただけではなく、地上に降りてからは自分の戦っている相手が生身の人間であることを事あるごとに思い知らされていました。おそらく心も体も殺人行為を拒否し始めていたのではないでしょうか。
アムロの戸惑いを知ってか知らずか、ジオン兵たちはワッパでガンダムに接近して爆弾を設置し続けます。アムロもバルカン砲で応戦しますがまったく当たりません。
やがて爆弾の設置を終えたジオン兵たちは、爆弾をめがけて射撃を開始します。シールドに設置された爆弾を爆破され、ようやくガンダムに爆弾を設置されたことに気付いたアムロは、破壊されたシールドを振り回し、風圧でジオン兵たちを追い払います。
しかし問題はここからでした。いつ爆発するかわからない爆弾を取り外すため、技術力のあるアムロがただひとりで作業を行う羽目に陥りました。万一の場合の犠牲を少なくするためとはいえ、あまりにも厳しい状況です。
このときジオン兵は遠く離れた場所から爆弾が爆発する瞬間に備えていました。アムロがひとりで爆弾処理を行う光景を最初は笑いながら見ていた兵士たちですが、作業が進むにつれ、なぜか徐々にアムロを応援するような言葉を口にし始めます。やがてすべての爆弾が処理され、離れた場所で爆発したのを見届けた彼らは、アムロの顔を一目見ようと、地元の青年団に扮してガンダムに接近、軽くあいさつを交わしてその場を後にしたのでした。
連邦の兵士もジオンの兵士も、お互い命がけで生き延びている。「時間よ、とまれ」は、そんな単純な事実を「ガンダム」と「爆弾」、「ジオン兵」を使って見事に表現した傑作回ではないでしょうか。
(早川清一朗)