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長編アニメ『幸福路のチー』のソン監督、制作基盤のない台湾で「独自のアニメ」を創造

台湾発の長編アニメーション『幸福路のチー』が、日本で劇場公開されます。少女時代のノスタルジックな想いと大人になってから直面する現実的な悩みが交互に描かれた内容は、高畑勲監督の『おもひでぽろぽろ』(1991年)を彷彿させるものがあります。同作の見どころと、来日したソン・シンイン監督のコメントをお届けします。

『ガッチャマン』に夢中な少女が主人公

少女の妄想が、台湾の歴史を舞台にしたストーリーを彩る。劇場アニメ『幸福路のチー』より
少女の妄想が、台湾の歴史を舞台にしたストーリーを彩る。劇場アニメ『幸福路のチー』より

 タピオカティー、豆花、マンゴーかき氷……、台湾には日本人好みの美味しいスイーツがいっぱい。東日本大震災の際には、台湾から多額の義援金が送られました。台湾は親日国として知られ、日本からの観光客は過去最高を記録しています。

 日本人が親しみを覚える台湾で、女性監督が撮った1本の長編アニメーションが話題を集めています。京都大学への留学経験もあるソン・シンイン(宋欣穎)監督の半自伝的映画、『幸福路のチー』(2019年11月29日より全国順次公開)です。

 1975年生まれの女の子・チーが大人へと成長していく物語ですが、シンプルなキャラクターデザインは、日本人が見てもどこかノスタルジックさを感じさせます。その一方、日本人があまり知らなかった台湾の現代史が、チーの目線を通してリアリティーたっぷりに描かれ、とても見応えのある上映時間111分となっています。

 物語の舞台となるのは、台北の郊外に実在する「幸福路」という下町です。近くには工場が並び、川には廃棄物が散らかり、決して環境のよい街ではありません。裕福ではないチーとその両親は、「幸福路」での新生活をスタート。1949年から続いた戒厳令が1987年にようやく解かれ、民主化へと進んでいく変動の時代を生きることになるのです。

『ガッチャマン』のテーマを歌う、小学校時代のチーたち。劇場アニメ『幸福路のチー』 より
『ガッチャマン』のテーマを歌う、小学校時代のチーたち。劇場アニメ『幸福路のチー』 より

 中華圏の現代史と聞くと小難しく感じてしまうかもしれませんが、そこは想像力旺盛な女の子、チーを中心とした日常生活をユーモラスに描いているので、まったく身構える必要はありません。台湾の先住民族であるアミ族の血を引く祖母、チーが通う小学校の仲間たちとの心温まる交流もファンタジックに表現され、大いに楽しませてくれます。

 少女時代のチーはテレビで放送されるアニメが大好きで、特にSFアニメ『ガッチャマン』に夢中。小学校の同級生である金髪の女の子ベティやいたずら好きな男の子シェン・エンたちと一緒に『ガッチャマン』の主題歌を歌うシーンは、とても心に響きます。

 チーたちは『ガッチャマン』を日本のアニメと知らなかったわけですが、日本のアニメに勇気づけられるチーたちに、多くの日本人も共感を覚えるのではないでしょうか。

【画像】『幸福路のチー』過去と現在が交錯し、人生と向き合うシーン(14枚)

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