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長編アニメ『幸福路のチー』のソン監督、制作基盤のない台湾で「独自のアニメ」を創造

台湾独自のアニメを生み出す大変さ

東京都内でインタビューに応える、ソン・シンイン監督(マグミクス編集部撮影)
東京都内でインタビューに応える、ソン・シンイン監督(マグミクス編集部撮影)

 京都大学に2年間留学し、映画理論を学んだソン監督だけに、日本文化に精通し、日本語もかなり堪能です。もともとは実写映画を撮っていたソン監督ですが、なぜアニメーション制作の基盤のない台湾で、長編アニメを作ろうと思い立ったのでしょうか。来日したソン監督にお話を聞きました。

「きっかけは、イラン出身のマルジャン・サトラピ監督の『ペルセポリス』(2007年)というアニメーション映画を観たことでした。『ペルセポリス』は1970年代~80年代のイランで思春期を送った少女の物語でした。それを観て、私も自分自身の体験を映画化することを思いついたんです。

 戒厳令下の台湾で生まれ育った女の子を主人公にすれば、多くの人の共感が得られると考えたんです。社会の変化を描くには実写よりもアニメーションのほうが便利ですし、少女時代の思い出をファンタジックに描くのにも最適です。

 台湾には『スタジオジブリ』や細田守監督のいる『スタジオ地図』のような、きちんとシステムの整ったアニメーションスタジオはまだありません。でも、私は一度決めたら、前に進むしかできない性格なんです(笑)。大変でしたが、いろんな方たちからの支援を受けて、4年がかりで完成させることができたんです」

 製作費約1億8000万円を集め、新しい会社「幸福路映画社」を立ち上げるなど、ソン監督の行動力には目を見張るものがあります。パワーあふれるソン監督ですが、40人ものアニメーターを束ねて、台湾ならではのオリジナルアニメーションを生み出すのは想像以上の苦労があったようです。

「台湾にも若いアニメーターたちはいるんですが、『名探偵コナン』や『鋼の錬金術師』などに憧れてアニメーターになった若いスタッフは、やはり『コナン』や『ハガレン』のようなキャラクターを描きたがるんです。

 また、作画監督はふたりのベテランアニメーターに務めてもらいましたが、彼らは日本や米国のアニメ作品の下請け仕事を長年受けていたこともあって、身についているスタイルを一度忘れてもらうのが大変でした。日本とも米国とも違う、台湾ならではのアニメーション映画を私は作りたかったんです。

 私のイメージに合った絵コンテを描いてもらうのにも、かなりの時間を要しました。例えば、大人になったチーが工場で夜警のアルバイトをしている父親に手づくりのお弁当を届けに行くシーンがあるのですが、『父親が近所のコンビニで弁当を買えばいいのに、主人公はなんでわざわざ手づくり弁当を届けに行くんだ?』と、すぐには理解してもらえませんでした。

 国際結婚したチーは離婚を考えており、老いた父親に相談するつもりでお弁当を届けに行くものの、言い出せずにいる様子をロングショットで描きたかったんです。毎日のように時間をかけて、1シーンごとにスタッフに説明しながらの作業がずっと続きました」

【画像】『幸福路のチー』過去と現在が交錯し、人生と向き合うシーン(14枚)

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