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「ジブリ作品=宮崎アニメ」のイメージはいつできた? 『海がきこえる』と『耳すま』に転機が

「スタジオジブリ作品」と聞くと、宮崎駿監督作品のタイトルや絵が思い浮かぶ人は多いでしょう。しかし同スタジオには他にも監督をつとめたクリエイターが少なからずいました。そうしたイメージが出来上がったきっかけには、ジブリの「後継者育成」という複雑な歴史が関係していました。

「宮崎駿氏に続く監督を見つけること」は困難と認めた

2023年12月から北米で公開され、日本国内に続く大ヒットとなっている、映画『君たちはどう生きるか』 (C)2023 Studio Ghibli
2023年12月から北米で公開され、日本国内に続く大ヒットとなっている、映画『君たちはどう生きるか』 (C)2023 Studio Ghibli

 2023年は、スタジオジブリについてひときわ大きな注目が集まった年でした。事前の宣伝活動をほとんど行わないまま公開された宮崎駿監督作品『君たちはどう生きるか』の大ヒット、そして「日本テレビの子会社化」の発表は、多くの人が驚き、関心を寄せたのではないでしょうか。

 スタジオジブリの代表取締役議長・鈴木敏夫氏は、日本テレビの子会社化発表の記者会見の席で、クリエイティブ面での後継者育成は「ことごとく失敗に終わった。宮崎に続く有望な監督を見つける、育成するその困難さを知った」と語りました。

 ここで注目したいのは「宮崎に続く有望な監督」という文言です。確かに、スタジオジブリは高畑勲監督を筆頭に、ほかの監督の作品も数多く手掛けているにもかかわらず、スタジオジブリ作品=宮崎アニメのイメージが強いです。クリエイティブ面での後継者と言われれば、多くの人が「宮崎アニメ」的な作品を作る人を思い浮かべるのではないでしょうか。

厳しい言い方をすれば、それはスタジオジブリが「宮崎アニメ」以外のブランドを商業的に確立できなかったという証左でもあります。 それでは、こうした「スタジオジブリ作品=宮崎アニメ」という認識はどのようにして築かれていったのでしょうか。

 スタジオジブリは宮崎駿氏と高畑勲氏の映画制作の拠点として設立されましたが、かなり早い段階からふたりと並ぶ第三の監督探しと、その前準備としての若手育成に臨んでいました。

 片渕須直氏を監督に、一色伸幸氏を脚本に招き、若手を中心にして制作する予定だった1989年の映画『魔女の宅急便』は、宮崎駿氏自らが監督・脚本・絵コンテを担当し、結果として当時人気が下降気味だったスタジオジブリにとって起死回生のヒット作となっています(そのことは過去記事「ジブリ「後継者育成の失敗」には長い歴史があった 押井守、片渕須直の「監督作品」も幻に?」で書きました)。

 しかし、若手育成への試みがそこで絶えたわけではなく、同作の完成後、スタジオジブリはスタッフの社員化と固定給制度の導入、そして新人の定期採用とその育成に乗り出します。

【画像】好き? 嫌い? 若手ジブリスタッフが手掛けた『海がきこえる』のヒロイン・武藤里伽子(9枚)

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