「新たな基準」を作ろうとした『ガンダムF91』 親子が「分かり合う」のはシリーズ初?
『機動戦士ガンダムF91』は、アムロとシャアの最終決戦後のガンダムユニバースの基準となるべく企画されました。そのため、以前のガンダムとは一線を画した展開や設定が盛り込まれています。あらためて『F91』を振り返ります。
アムロとシャアがいない「宇宙世紀」が始まる
映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(以下、逆シャア)から約30年後を舞台にした『機動戦士ガンダム F91』(以下、F91)は、アムロとシャアが去ったあとの新たな宇宙世紀の物語の基準「Formula(フォーミュラ)」を目指して企画された作品です。そのためか以前の「ガンダム」にはない特徴や展開がみられます。
2023年12月24日(日)19:00からBS12で『F91』が放映されます。『逆シャア』以前の「ガンダム」とは違う展開や設定について振り返ります。
●はじめて家庭問題を修復できた「F91」
「ガンダム」の主人公の多くは、親との葛藤を抱えています。『逆シャア』以前の「ガンダム」では、壊れた家庭が修復されることはありませんでした。消息不明、あるいは出稼ぎに出ていて最初から最後まで存在感がなかったり(『機動戦士ガンダムZZ』)するのはともかく、仕事で家庭を顧みなかったり、愛人を作っていたり(『機動戦士ガンダム』『機動戦士Zガンダム』)したまま死別してしまうので、親子は永久に分かり合えないのです。
しかし『F91』は違います。シーブックは父レズリーと死別してしまいますが、家庭を顧みず仕事漬けだった母モニカとは家族の絆を回復しました。『F91』は作中で家族のつながりを回復できた、希少な「ガンダム」だと言えるでしょう。しかも、ストーリー展開においてもモニカの役割は大きいのです。
前作の『逆シャア』では、アムロの同僚である女性パイロットのケーラが、ネオ・ジオン軍のギュネイによって宇宙に放り投げられ亡くなりました。一方、同じように宇宙空間に投げ出された『F91』のヒロイン、セシリーは生還できました。
セシリーの救出シーンでは、モニカがガンダムF91のバイオセンサーを調整したり、シーブックを叱咤激励したりしていました。セシリーとシオ、鉄仮面(カロッゾ)の関係性も重要で、全体的に親の存在感が大きいのが『F91』の特徴だと言えます。
●最後まで素顔を見せない鉄仮面
富野監督作品にはマスクをかぶって素顔を隠したキャラクターが数多く登場します。「赤い彗星」のシャア・アズナブルや『ダンバイン』の黒騎士(バーン・バニングス)などが有名です。彼らは隠したい本質があって素顔を覆っているのです。
しかし、『F91』のラスボス、「鉄仮面=カロッゾ・ロナ」の素顔は現在に至っても明かされないままです。鉄仮面だけは仮面を付けた姿こそが本質だったのかもしれません。
セシリーとの会話で「強化人間」であることが判明した鉄仮面ですが、明らかにフォウ・ムラサメやエルピー・プルに代表される『逆シャア』以前の強化人間たちとは異なります。
鉄仮面は銃撃されても平気だったり、ノーマルスーツを装着しないで宇宙空間で活動したり、素手でモビルスーツのハッチをこじ開けたりしているのです。元は研究者だった鉄仮面は、自身の研究成果で肉体と精神を強化し、自ら設計した巨大モビルアーマー「ラフレシア」に搭乗してシーブックと対峙します。
『F91』が文字通り「新たな基準」となってガンダムユニバースが作られたとしたら、鉄仮面のような強化人間がたくさん登場した可能性があります。
他にも『F91』ではMSの小型化など、数々の取り組みがなされており、新たなガンダムワールドを作ろうとする意志を感じます。TVアニメという形での続編は現在まで作られていませんが、その意欲的な設定や世界観をもとに、後に『機動戦士クロスボーン・ガンダム』など特徴的なスピンオフが多く作られたのも納得です。
(レトロ@長谷部 耕平)