アニメの「企画」ってどんな仕事? ジェンコ・中尾プロデューサーに聞く
「クオリティ」と「予算・スケジュール」の狭間で…

――絵コンテを見て、「何だこの下手な絵は!」って驚くクライアントもいるんじゃないですか?
中尾 いらっしゃいますね。もちろん、素晴らしい絵をコンテ段階から描かれる方もいらっしゃいますが、棒人形のような絵に表情だけのラフ描きの方も多いですし、なかには何を描いているのか、ひと目では判別しがたいものもあります(笑)。
絵コンテはマンガでいうところのネームのようなもので、それ自体の絵の質は、映像の良し悪しにはあまり関係ありません。ですから、そのことも含めてクライアントにきちんと理解してもらったうえでクオリティをコントロールすることが重要です。
――アニメの映像制作では、まずはシナリオが上がってきてから、それをもとに絵コンテを起こします。シナリオ段階と絵コンテ段階、クオリティコントロールが大変なのはどちらでしょう?
中尾 どちらかと言えばシナリオ段階ですね。場合によっては第七稿や第八稿まで改稿作業が続いたり、作品全体を通しての物語、つまりはシリーズ構成自体が丸ごとひっくり返ったりすることもあります。
ところが、日本のアニメ製作の現場では、絵コンテ段階に入った途端、「あとは監督とスタッフの皆さんにお任せ」という傾向が強いんです。ディズニーなど海外のスタジオでは、そうではないようですが。
――「今さらそんなことを言われても……」のように、クライアントからの要求で、ほとほと困り果ててしまった経験はありますか?
中尾 しょっちゅうあります(笑)。特に原作者の先生には、「アニメはアニメだから全面的にお任せします」という方もいらっしゃれば、逐一細かく要望を伝えてくる方もいらっしゃいます。
後者のタイプの先生に、「キャラクターのこの芝居が、どうしても気に入らないから変えてほしい」と言われたとします。こちらとしては応じるしかないのですが、すでに映像完成間近の編集段階に入っていたりすると、絵コンテから修正する時間は到底取れない。「さあ、どうしよう?」ということになるわけです。
――どうされるんですか?
中尾 前後のカットの尺を変えたり、つなぎ替えたり、あらゆる方法を考えて対応します。アニメ製作は、常にクオリティと予算とスケジュールの厳しいせめぎ合いです。それでも、ギリギリまでクオリティにこだわりたいのは、僕自身が演出家でもありますし、少しでも内容を良くしなければ多くの人に見てもらえないという信念があるからですね。
(取材/構成:香椎 葉平)
●中尾幸彦(なかお・ゆきひこ)
studioぴえろにて制作進行を務めた後、東映アニメーションで『おジャ魔女どれみドッカ~ン!』『ドラゴンボール超』『美少女戦士セーラームーンCrystal』など多数の作品の演出を手掛ける。現在はジェンコに所属し、プロデューサーとして『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』『放課後さいころ倶楽部』などの企画を手掛けている。
Twitter:@nanokayuki