流行りの「アニメ倍速視聴」、『葬送のフリーレン』には通用しない? 早回し不可の演出とは
『フリーレン』が倍速視聴に向かないワケ

つまり逆にいえば、声やBGM以外に大量の情報が詰め込まれている作品は倍速視聴にまったく向いていないのです。現在放送中のTVアニメ『葬送のフリーレン』はまさにその代表的な例でしょう。
「フリーレン」は極めて珍しいことに、軸となるストーリーが希薄な作品です。フリーレンが人を知る旅をしている、七崩賢の生き残りをはじめとする魔族をせん滅する、北に向かうなどの大まかな枠組みはあるのですが、はっきりとした目的は未だ明かされていません。そもそも目的があるのかどうかもわからない状態です。
近年多く制作されている原作付きの1クールアニメは限られた尺のなかにできる限り多くの情報を詰め込もうとするためか、視聴者に情報を提示する際にセリフに頼る傾向が強くなっていますが、「フリーレン」はかなりゆったりとした尺の使い方をしているためか、キャラクターの視線や動作にセリフを組み合わせて感情の機微を伝える……といった作劇を多用しているのです。
一例を挙げると、第17話「じゃあ元気で」の1シーンで、シュタルクがフェルンに後ろからじゃれつき、肩に手を置いたところフェルンが切れた場面が挙げられます。セリフだけで描写しようとした場合、まず手を置かれたフェルンが「離してください」などとしゃべるはずですが、本編ではフェルンが驚きと恐怖で目を見開く描写が行われ、その後にシュタルクの力が強くて怖かったと語る流れになっています。
セリフだけでも内容を把握できないわけではないのですが、この一連のシーンではフェルンの目の見開き方と視線で「何が問題だったのか」を明らかにしています。軽く触れられただけとはいえ、一撃で巨大なドラゴンを倒すシュタルクの力を考えれば、女性にとってはかなりの恐怖を感じるのは当然と言えるでしょう。
また、第15話「厄介事のにおい」では1分間にわたるダンスシーンが描かれていますが、その翌日、オルデン卿が次男のムートに稽古を付けているのをシュタルクが窓越しに見ているシーンでは、フェルンが窓に近づき、一緒に外を見ようとしています。このときフェルンは足音だけでセリフはありませんが、おそらくは「シュタルクがなにを見ているのか知りたい」描写であり、フェルンがシュタルクのことをかなり気にしていることがうかがえます。
その他にも作中では細かい芝居に情報が詰め込まれているため、しっかり見ないと見落としがかなり出てしまうでしょう。
せっかくアニメを見るのですから(なかなか難しいのは分かりますが)、ゆったりと時間を使ってみてはいかがでしょうか。きっと、今まで見えていなかったものが見えてくるはずです。
(早川清一朗)




