DQの敵は「まもの」←「モンスター」じゃないの? 日本語への想いと「制限」
『ドラゴンクエスト』に登場する敵たちを「まもの」と呼びます。今思えばちょっと不思議な単語えらびです。いったい、どのような理由があったのでしょうか?
スライムやドラゴンたちは「モンスター」ではなく「魔物」

RPGの代名詞的存在「ドラゴンクエスト」シリーズ。中世ヨーロッパ風の世界を下敷きにしながらも、登場人物同士のノリや細やかな言い回しは、どこか人情噺(ばなし)のような温もりを感じさせてくれます。
そのなかでも特徴的な日本語表現が、「まもの」ではないでしょうか。スライムやドラゴンなど、行く手を阻む敵のことを「ドラクエ」では基本的には「まもの」と呼びます。漢字で書けば「魔物」です。
精選版日本国語大辞典で「まもの」を引けば「[名] 魔性のもの。悪魔のようなもの。ばけもの。へんげ。妖怪(ようかい)。魔の物」とあり、日本古来の怪異自体を指す語としての向きが強いようです。こうした単語のチョイスが独特の「ドラクエ」ワールドのインフラを整えているといえるでしょう。
実際、「まもののむれ」「まものつかい」など、「まもの」起点の「ドラクエ」用語は多くあります。
さて、そもそも「ドラクエ」ではどうして「まもの」という言葉を用いているのでしょうか。なぜ(少なくとも初期においては)「モンスター」ではなかったのでしょうか。初代『ドラゴンクエスト』の製作状況と合わせて見ていきましょう。
まず大前提として、初代『ドラクエ』は圧倒的な容量不足のなかで製作されたものでした。何せ、ROMカセットの容量が64KBしかなかったのです。そうなってくると自ずと使用可能な文字も制限しなくてはなりませんでした。カタカナは使用頻度の高いものから選ばれ、たったの20文字。イ、カ、キ、コ、シ、ス、タ、ト、ヘ、ホ、マ、ミ、ム、メ、ラ、リ、ル、レ、ロ、ンのみ。ここには「モンスター」に必要な「モ」が存在していないのが分かります。
一方で、ひらがなに関しては全て搭載されています。こうした環境から「モンスター」ではなく「まもの」という言葉が用いられることになりました。
また『ドラクエ』の生みの親でありシナリオライターの堀井雄二氏は、シリーズ全体の「ひらがな」を駆使した表現に対し、「Yahoo!ニュース Voice」のインタビュー内で次のように語っています。
「(容量制限の関係で)ひらがなしか使えなかったので、ひらがなでも意味が分かりやすいようにしました。『ただのしかばねのようだ』というセリフがありますが、『ただのしたいのようだ』と書いてしまうと、“したい”(=やってみたい)みたいに見えて分からないなと思って、“しかばね”という表現にしたり」
ここでは「しかばね」が例に出されていますが、なるほど「まもの」もまた同様のことがいえます。単に「モンスター」を換言したのでなく、一見して誤解なく意味の通る言葉として「まもの」が選択されたのでした。ナレーションではなく、セリフベースで物語が進行する「ドラクエ」だからこその工夫でもあったのです。
今なら「モンスター」とも「魔物」ともいかようにも表記できるのですが、やはりスライムやドラゴンは「まもの」なのです。
(片野)


