『北斗の拳』修羅の国で明かされた漢たちの血脈を整理 なぜ「血」は必要とされたのか
血の設定が必要な理由は「ラオウ」のせいだ…?
●なぜこんな「血」の設定が必要だったのか
メタ的な観点から血の設定を見ると、その原因はあまりにも大きなラオウの存在感にあると思われます。天帝編のラスボスである「ファルコ」は、天帝を人質に取られて戦いを強いられていたため、明らかにラオウよりもスケールの小さなライバルでした。天帝編はケンシロウよりも「バット」や「リン」「アイン」に存在感があり、彼らのためのエピソードだったようにも思えます。
修羅の国編では再びケンシロウが主人公になるものの、死闘を繰り広げる相手がラオウよりも格下では物語が陳腐化してしまいます。そこで登場したのがラオウによく似た実兄、北斗宗家(北斗神拳伝承者)の血を憎悪するカイオウです。
「世紀末覇者」を自称するラオウに対し、カイオウは「新世紀創造主」を名乗り、黒王号を思わせる巨馬に騎乗します。カイオウは愛を否定し、血に刻まれた悪と憎悪をパワーの源とする「北斗琉拳」をもって、北斗神拳に対抗します。
オウカはリュウオウがいたにも関わらず、妹の息子シュケンを継承者に指名してその身を投げました。カイオウの母もまた、北斗宗家の血を引くヒョウやケンシロウを助けるため火災の中に飛び込み、命を落としました。リュウオウの血統では母を失う苦しみ、愛を失う苦しみが繰り返されるのです。この苦しみに対抗するため、愛を否定し悪と憎悪の力で残酷な世界に立ち向かうのがカイオウです。愛を失う苦しみから愛の無価値を証明しようとしたサウザーと似ていますね。
●ラオウには勝てないカイオウ
相手が北斗宗家(シュケン)の血を引くケンシロウだったから、血に潜む憎悪パワーで戦えたカイオウですが、実弟ラオウには勝てそうにありません。リュウオウの血統だからというだけでなく、いつも一緒にいて、母を失った時、埋葬した時にも苦しみを共有したからです。
カイオウはラオウに対し、ギリシャ哲学でいうところの血縁の情愛「ストルゲー」を抱いています。家族愛や兄弟愛は、男女間の性愛である「エロス」や友人愛の「フィリア」よりも原初的な愛のあり方だと言われています。つまりカイオウは本質的に、北斗琉拳の力の源である「憎悪」を、ラオウに対しては意図しない限り抱けないのです。
血の設定により、カイオウは強さのインフレを避け、ラオウの格を一切落とすことなく、ケンシロウにとって強大な敵であることに成功しました。時間軸を過去に遡ることによって設定されたシュケンとリュウオウにまつわるエピソードは大成功したといえるでしょう。
そういえば、原作では幼少期の「ジャギ」について全く語られていません。ジャギは修羅の国出身ではないようですし、北斗宗家とも関係なさそうです。もしジャギが一般人だったとしたら、北斗神拳の修行に耐えられる最強クラスの素質を持っていたと思われますが、最初から継承者レースで勝つ見込みはなかったのかも。
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2024年2月20日(火)、『北斗の拳』40周年を記念しコアミックスより刊行が開始されたコミックス『新装版』の、第13巻と第14巻が発売されました。毎月20日に2冊ずつ発売される予定で、各巻の収録話は10年前に刊行された「究極版」と同じです。
またコアミックスのマンガ配信サイト「WEBゼノン編集部」の『金曜ドラマ 北斗の拳』にて、その刊行にあわせ、羅将「ハン」との決着、そして修羅の国における「ラオウ伝説」と北斗三兄弟の過去が語られる第176話「ラオウ伝説走る!の巻」と第177話「燃えさかる宿命!の巻」を、2024年2月20日(火)0時から同年3月4日(月)23時59分までの期間、無料で公開しています。
■WEBゼノン編集部『金曜ドラマ 北斗の拳』
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