『ガンダム』「ザク」の名前の由来は? ファンが「勘違い」しがちなアニメのネーミング裏話
ファンの間でよく噂される「ガンダム」や「ザク」の名前の由来って、本当に正しい? 実情を知る筆者が解説します。
アニメタイトルやメカの「ネーミング」はどう行われる?
「この名前って誰が付けたのかな」
人気作品では必ずと言っていいほど、一度は話題になるこの問題。
あの『機動戦士ガンダム』についても、ご興味のある方は、いくつかの情報に出会っているのでは?
たとえば、当時のTVで話題だった「うーん、マンダム……」とつぶやく男性化粧品のCMから、という話。
企画段階での仮タイトルが『ガンボーイ』(ガンボイ)だったので、その「ガン」を残して「ボーイ」を「ダム」に変更。理由は、その方が「男の子向けのロボットとして強そうに聞こえる」から。
これらの情報は基本的に正しいと申し上げます。ただし、ここからが大事。
よく、こうしたネーミングのインタビュー記事で「私が付けた」とおっしゃる当時の関係者とされる方々のコメントがあります。ただ、これを鵜呑みにされるのは、事情を知るものとしてはちょっとお待ち下さいと申し上げます。
特に番組タイトルに関わるようなネーミングの場合、ひとりの特定の人物の案であることはあまりありません。なぜなら、特にメイン商品に関わるような名前の場合、そこにはさまざまな立場の人々の複数の意見が加わってくるからなのです。
もちろん例外はあるでしょう。しかし、大概の場合、複数の関係者が会議を行い、そこに提案されるいくつかの案を精査することで名前は決まりますし、さらにその後「商標」等の審査がありますので、せっかくの名前も考え直しになることもあるのです。
たとえば『魔神英雄伝ワタル』は、本当は『魔神英雄伝タケル』(日本武尊から)でした。が、とある製菓会社が「タケル」の商標登録を持っており、かなり放送に近くなってから「ワタル」に変更したのです。また別番組では犬の名前が某有名菓子メーカーと同一だということで変更しています(いずれも決定経緯には関わっております)。
商標にはジャンルのようなものがあり、菓子はTVアニメーションの商品に関わることが多いため、確認ジャンルの商標に含まれてしまうからです。
そんななか、番組成立時には商品化が予定されていないので、現場レベル、例えば監督、脚本家、演出、時には広報などの段階で付けた名のものが、あとで商品化されることもあります。
ガンダム好きなら誰でも知っているモビルスーツ・ザク。番組成立当初には商品化予定はなく、敵の「やられメカ」でしかなかったザクの名は、かなりラフな理由で付けられています。
「兵隊たちの足音はザクザクだろ」
「やられメカの雑魚(ザコ)だからね」
まさか後になってガンプラ人気の火付け役になるなんて、当時は誰も思っておらず、その場の思いつきで「ザク」は決まったのです。ごらんの通りその要素も複数。命名会議なんてレベルではなくて、その場にいた人たちが付けたようなものです。
これは『ガンダム』の企画から広報等まで担当していた直接の上司からいつも聞いていた話です。
TVアニメーションの制作には、それぞれその時の環境があり、決定までの経緯もそれぞれです。色々な人から色々な案が出てくるなか、さまざまな状況のなかで決まってゆくものなのです。
(風間洋(河原よしえ))
【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。