マグミクス | manga * anime * game

『この世界の片隅に』すずはなぜ愛されるのか 現代人の「かけがえのない存在」

どっぷりと『この世界の片隅に』を味わえる、もうひとつの新作映画

ドキュメンタリー映画『〈片隅〉たちと生きる 監督・片渕須直の仕事』 (C)「片隅たちと生きる」製作委員会
ドキュメンタリー映画『〈片隅〉たちと生きる 監督・片渕須直の仕事』 (C)「片隅たちと生きる」製作委員会

 よりどっぷりと『この世界の片隅に』を味わいたい人のために、もうひとつ最適な新作映画があります。現在公開中のドキュメンタリー映画『〈片隅〉たちと生きる 監督・片渕須直の仕事』です。リサーチのために広島に何度も足を運び、6年の歳月を費やして『この世界の片隅に』を完成させ、休む暇なく『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の制作に取り掛かった片渕須直監督の姿を追ったものです。

 片渕監督は大学時代、宮崎駿監督が手掛けたTVシリーズ『名探偵ホームズ』(テレビ朝日系)に脚本で参加し、アニメ業界入りを果たしています。世界名作劇場『名犬ラッシー』(フジテレビ系)や劇場アニメ『マイマイ新子と千年の魔法』(2009年)などの日常アニメが高い評価を得てきましたが、なかなかヒット作には恵まれなかった苦労人です。そんな片渕監督にとって、『この世界の片隅に』を応援する各地のファンたちとの触れ合いは大変な励みだったことをドキュメンタリー映画は伝えています。

 声優としての評価を得たのんさん、リン役を演じた岩井七世さんらがアフレコする場面では、片渕監督が細やかに演出している様子もカメラは映し出しています。のんさん、岩井七世さんらがどのような心情でそれぞれの役を演じていたのかが分かります。

 また、『この世界の片隅に』に監督補、画面構成としてクレジットされている浦谷千恵さんの繊細な仕事ぶりを見ることもできます。浦谷さんは片渕監督の妻であり、片渕監督の『BLACK LAGOON』(2006年)や『マイマイ新子と千年の魔法』の作画監督を務めるなど、長年にわたって片渕作品を支えてきました。ロケハンや舞台あいさつに飛び回る片渕監督がスタジオを留守にしている間は、浦谷さんが現場を切り盛りしていたのです。

 音響効果のベテラン・柴崎憲治さんはリアルに再現された戦時下の生活描写に拮抗するよう、米軍に爆撃されるシーンでは自衛隊の演習地に出向いて本物の砲撃音や銃声を録音し、本編に使ったことを明かしています。音楽を担当したコトリンゴさんの歌声同様にほんわかした人柄も垣間見ることができます。

 才能あふれる、さまざまな片隅が組み合わさることで劇場アニメ『この世界の片隅に』は完成し、さらに大勢のファンに愛されることで『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』へと広がっていたのです。この世界は愛すべき片隅でいっぱいだった……、そんな大切なことに気付かせてくれます。

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』と『〈片隅〉たちと生きる 監督・片渕須直の仕事』、どちらも年末年始におすすめの心温まる作品です。

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』
原作/こうの史代 監督・脚本/片渕須直 音楽/コトリンゴ
声の出演/のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、牛山茂、新谷真弓、花澤香菜、澁谷天外
配給/東京テアトル
(C)2019 こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

劇場用長編アニメ「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」公式サイト

『〈片隅〉たちと生きる 監督・片渕須直の仕事』
監督/山田礼於 音楽/コトリンゴ 語り/中井貴惠 撮影/長田勇
出演/片渕須直、のん、岩井七世、花澤香菜、浦谷千恵、松原秀典、伊藤憲子、コトリンゴ、柴崎憲治、川本三郎
配給/東京テアトル、ジェンコ
(C)「片隅たちと生きる」製作委員会
https://ikutsumono-katasumini.jp/documentary

(長野辰次)

【画像】おっとりした魅力の「すず」と遊郭で暮らす「リン」(10枚)

画像ギャラリー

1 2 3