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謎の人気マンガ『ロボ・サピエンス前史』 読後も「時間旅行」から帰れない

宝島社『このマンガがすごい!2020』オトコ編の第2位に輝いた、島田虎之介先生の『ロボ・サピエンス前史』。これまでになかった壮大な時間軸で描かれるロマンチックなストーリーは、見る人を不思議な時間旅行へ連れて行ってくれます。他の受賞作と比べても異質な魅力を放つ本作、果たしてどんな面白さがあるのかを体験してみました。

ロボットが見せる「超長編」ヒューマンドラマ

『ロボ・サピエンス前史』上巻(講談社)
『ロボ・サピエンス前史』上巻(講談社)

 宝島社『このマンガがすごい!2020』オトコ編の第2位に輝いた、島田虎之介先生の『ロボ・サピエンス前史』。これまでになかった壮大な時間軸で描かれるロマンチックなストーリーは、見る人を不思議な時間旅行へ連れて行ってくれます。他の受賞作と比べても異質な魅力を放つ作品です。

 AIにより驚きの進化を遂げたロボットと、ヒトとが共存する未来の世界。シンプルかつミステリアスな島田先生の描く世界は、ところどころにディストピアな雰囲気をにおわせてきます。物語の核となるのは、全てAIを搭載したロボットたち。

 ヒトからの愛情を一心に受け、その主人が死んだ後も自分を人間と思い生きているロボット。自由意志を持ち、さまざまな仕事依頼の信号を受信しながら、世界を飛び回るロボット。外宇宙の探索のため、成功の可能性が限りなく0に等しい探査計画に乗り出すふたりのロボット。核廃棄物の放射能が無害化するまでの、25万年もの期間をひとりで管理するロボット。

 全てのロボットに、私たち人類の見る夢やロマンが託されます。物語序盤では、そんなヒトとロボットの交流のなかに、明るい未来を感じさせるようでした。しかし、彼らが託された膨大な時間を、ともに生きることのできる人類は存在しません。次第に島田先生の描く世界の「主役」は、ヒトからロボットへと移ります。ストーリーに変化が訪れるにつれ、読者もまた、無機物のロボットに心奪われていくのです。果たして彼らは、その役目をまっとうできるのだろうか? いや、そもそも彼らの役目を、見届けることのできる存在はいるのだろうか? そして、彼らは一体どこに行ってしまうのだろうか……?

 もはやヒトの手から離れた、ロボットの行く末。ハリウッドのSF作品であれば、ヒトを根絶するための戦争が描かれるでしょう。しかし、本作の視点はあくまで、幾人かのロボットたちの目線です。数か月、1年、100年と、普段想像もしないほどの時間旅行を、彼らの目を通して島田先生は追体験させてくれました。読み終わった後もずっと、筆者の頭は数十万年先のロボット達の生涯を、思わずにはいられませんでした。

 本作のタイトルは『前史』。つまりロボットにとって、有史以前の物語ということです。始まってすらいないロボットの歴史に、ヒトがどう関わり、どう別れを告げたのか。ロボットだから示せる「超長編」のヒューマンドラマは、どこまでも想像力をかき立ててくれます。長編映画を見たような読後感を味わいたい方は、ぜひ手にとって読んでみてください。

(サトートモロー)

【画像】読者を引き込む、島田虎之介の世界

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