『薬屋のひとりごと』で描かれる三頭身←誰が生み出した? きっかけは40年以上前か
『薬屋のひとりごと』は、最近のアニメでは珍しく、ギャグシーンやコメディパートでキャラクターが三頭身にデフォルメされる演出が特徴です。今ではこのような演出は当たり前のものとして特に違和感なく受け入れられていますが、いったいいつ頃から始まったのでしょうか。ミニキャラ演出の起源について振り返ります。
デフォルメキャラへの変身を発明したのは誰?
2023年秋より2クール連続で放送されている『薬屋のひとりごと』(原作:日向夏)は、架空の中華風王朝を舞台に薬師の少女、猫猫(マオマオ)が専門知識を武器に活躍する物語で、シリアスな謎解きシーンと猫猫や壬氏たちによるコミカルなシーンのギャップが魅力的な作品です。中でも注目したいのは、デフォルメされたキャラの登場シーンが多い点でしょう。
キャラクターが突然ミニキャラになってしまうという表現技法が、いつ誰の手によって生み出されたのか、真実は定かではありません。しかし一説によると、1977年から「週刊少年チャンピオン」で連載されていたギャグマンガ『マカロニほうれん荘』が初めてではないかと言われています。
『マカロニほうれん荘』は、学園マンガと時事ネタ、不条理ギャグを組み合わせた一話完結型の作品です。「ピーマン高校」に入学し、アパート「菠薐荘」(ほうれんそう)で下宿を始めた主人公「沖田そうじ」は、万年落第中の変人先輩「金藤日陽」(きんどう にちよう)と「膝方歳三」(ひざかた としぞう)と同居生活をするなかで、さまざまなトラブルに巻き込まれます。
キャラクターが突然フレディ・マーキュリーの格好になってマイクを振り回したり、コウモリになって空を飛んでいったり、三頭身になったり、メカになったりと、テキストだけでは説明不可能な自由な演出が特徴です。当時としては早着替えやファッションショーのようにキャラクターが変化する点が先進的だったようです。
キャラクターの変身や誇張表現など、いまでは当たり前のように使われているマンガ表現の多くは手塚治先生の作品にみられますが、それを不条理ギャグや特殊なネーミングセンスと組み合わせて、より研ぎ澄ませたものが『マカロニほうれん荘』だったのかもしれません。
90年代以降も県立わかめ高校(セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん)やクロマティ高校(魁!!クロマティ高校)に通じるネーミングセンスは受け継がれているようで、不条理ギャグの血脈はつながっているようです。そういえば『銀魂』も『マカロニほうれん荘』と同じく、主要キャラクターの数名が新選組から名前をとっていたことや、『ドラゴンボール』パロディに代表される「変身」が多く見られました。
●一般化したデフォルメキャラ
『マカロニほうれん荘』以降もキャラクターが三頭身になる演出は『THE MOMOTAROH』(ザ モモタロウ)や『燃えるお兄さん』を始めとする多くのマンガで取り入れられています。
また六頭身や八頭身のキャラクターを二頭身、三頭身にデフォルメする表現は、SD(スーパーデフォルメ)キャラ、ぷちキャラなどの名称で一般化しており、フィギュアやステッカーなどの商品展開も盛んです。
猫猫のように作中で三頭身になるキャラクターだけでなく、『進撃の巨人』のように崩れた表現が一切ない作品のキャラクターまでもデフォルメされていることから、デフォルメはもはやギャグや感情表現の一形態に留まらず、キャラクターをマスコット化する動きにつながっているようです。
●猫猫が三頭身になるとき
クールで理知的な猫猫が三頭身になるのは、薬草や毒草、毒薬にまつわる好奇心が抑えきれなくなったときです。普段は社会性の仮面で隠れていた本質があらわになったとき、猫猫が「隙」や「かわいげ」を見せたときに彼女は子猫のような姿にデフォルメされます。
三頭身になった猫猫の頭部には猫耳、腰からはしっぽまで生えていますが、これは明らかに『マカロニほうれん荘』的な仮装ギャグの文脈とは異なります。クールな猫猫には好奇心の強い子猫のような別側面があることを、デフォルメ演出を通じて視聴者に伝えているようです。
三頭身になる表現は仮装めいたギャグ演出だけでなく、キャラクターの別側面を強調する表現も併せ持ちます。多くのキャラクターがデフォルメされ、「かわいさ」を強調したマスコットとしてフィギュア化されているのも頷けますね。
(レトロ@長谷部 耕平)