オタク文化の開祖 故・吾妻ひでおさんの「美少女キャラ」に見る理想の女性像
漫画家の故・吾妻ひでおさんは、日本のマンガ&アニメに顕著なロリコンもののパイオニアとして知られていました。オタク文化の開祖とも称された吾妻さんですが、実は表現者としての葛藤を抱え、壮絶な人生を歩んでいたのです。吾妻さんが描き続けた美少女キャラクターたちのルーツを探ります。
多くのファンがギャップ萌えした『ななこSOS』
『ななこSOS』『失踪日記』などで知られる漫画家の吾妻ひでおさんが、2019年10月13日に亡くなりました。享年69歳。11月30日には築地本願寺でファン葬が行なわれ、漫画家の萩尾望都さん、SF作家の新井素子さんが弔辞を読み、ファンは献花を行ない、吾妻さんとの別れを惜しみました。多くの人に愛された吾妻さんの功績を振り返りたいと思います。
吾妻さんは1950年、北海道十勝郡浦幌町生まれ。四方が山に囲まれた小さな村で育ったそうです。高校時代に石ノ森章太郎氏の『少年のためのマンガ家入門』(秋田書店)を読んだことがきっかけで、マンガを描き始めます。高校卒業後に上京。『おらぁグズラだど』がアニメ化されていた漫画家・板井れんたろう氏のアシスタントを務めながら、19歳で漫画家デビューを果たしました。
22歳の時には「週刊少年チャンピオン」でギャグ漫画『ふたりと5人』を連載し、これがヒット作に。以後、『チョッキン』『やけくそ天使』などの人気作を生み出し、売れっ子漫画家となります。シュールな内容の『不条理日記』は優れたSF作品に贈られる「星雲賞コミック部門」を受賞し、SFファンからも支持されることになります。
吾妻作品の人気の要因は、なんといってもかわいらしい女の子のキャラクターでしょう。萩尾望都対談集『愛するあなた 恋するわたし』(河出書房新社)では、「いちばん楽しいときは?」と聞かれ、「1年に1回くらいかわいい女の子が描けたときだな」と答えています。作者本人がうっとりするほど、吾妻さんが描く美少女キャラクターたちは、とても魅力的だったのです。
代表作『ななこSOS』の主人公である女子高生・ななこは超能力少女なのに、ドジで泣き虫というギャップがありました。吾妻さんのお気に入りキャラでした。『ななこSOS』は1983年にフジテレビ系でアニメ化されています。「な・な・こ・SOS!」というお約束のコールに合わせて、ななこはレオタード姿のスーパーヒロインに変身し、マッドサイエンティストたちを懲らしめるという内容でした。美少女が地球の危機を救うというストーリー展開は、のちの多くのアニメ作品で模倣されていくことになります。
半人前の女神ポロンを主人公にした『おちゃめ神物語 コロコロポロン』に続き、『ななこSOS』がテレビアニメ化されるなど活動の場をメジャーシーンにまで広げる一方、自販機本「劇画アリス」「少女アリス」などにも作品を寄稿。また1979年には日本初のロリコン同人誌「シベール」を自費出版し、黎明期のコミックマーケットで販売しています。メジャーとインディーの境界を越えた自由な仕事ぶりもさることながら、ロリコンブームの火付け役とも称されています。
吾妻さんの描く美少女たちは丸っこいフォルムが特徴的ですが、くびれのない太めの足も印象に残ります。二次元ならではのキュートさにあふれています。『スクラップ学園』の主人公・猫山美亜ことミャアは、ゆるんだソックスをよく履いていました。『スクラップ学園』は1980年に連載スタート。1990年代に人気を博するコギャル文化の象徴だったルーズソックスを、ずいぶん早くから先取りしていたことが分かります。