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オタク文化の開祖 故・吾妻ひでおさんの「美少女キャラ」に見る理想の女性像

幼少期の体験が「美少女キャラ」を生んだ?

『不条理日記 完全版』(復刊ドットコム)
『不条理日記 完全版』(復刊ドットコム)

 1980年代後半から90年代になると、吾妻さんの名前を見る機会が減るのですが、2005年に出版された『失踪日記』を読み、表舞台から姿を消していた理由をファンは知ることになります。連載マンガの締め切りに追われるのが嫌になり、自宅に妻や子供を残して、ホームレス生活を送っていたのです。さらには重度のアルコール依存症となり、隔離病棟に強制入院させられた体験も描いています。有名漫画家の壮絶な実体験を記録した『失踪日記』はベストセラーとなり、ロリータカルチャーの先駆者とは異なる形で、驚愕の復活を果たしたのでした。

 長期にわたる失踪生活をユーモラスにつづった『失踪日記』は文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞しました。文化庁メディア芸術祭の受賞者は、芸術祭の会場で開かれるシンポジウムに参加することが慣例となっています。テレビなどで見る機会のない吾妻さんがどんな生トークをするのか気になり、その日は朝早くに会場に向かったものの、吾妻さんをメインにしたシンポジウムは中止になったという1枚の張り紙が会場入り口には貼られていました。
 
 この時、吾妻さんのトークが聞けずに残念という気持ちよりも、なぜか不思議と安堵感を感じました。締め切りに追われる生活が嫌だった吾妻さんは、シンポジウムという堅苦しい場に登壇するのも苦痛だったのではないでしょうか。本当に嫌なものからは逃げてもいいんだ。会場の張り紙から、大切なことを教わったように思います。

 吾妻作品ではかわいくて、でも強くてタフで、ときどき残酷な一面も見せる女の子たちが大活躍します。では、吾妻ワールドを彩る美少女たちはどこから現れたのでしょうか。

 若い頃の吾妻さんは、手塚治虫氏や石ノ森章太郎氏らの初期作品から影響を受けていたことが知られています。丸みを帯びたフォルムやくびれのない足は、巨匠漫画家たちの遺伝子を受け継ぐもののようです。もうひとつ、吾妻さん自身の興味深いコメントを、2011年に発刊された『KAWADE夢ムック 総特集 吾妻ひでお』(河出書房新社)の2万5千字インタビューのなかに見つけることができました。

 インタビューのなかで、吾妻さんは「親父はあの、4回くらい結婚してるから。だから、しょっちゅうお母さんが変わってるんです」と語っています。生みの母親は吾妻さんが5歳の時、妹を連れて家を出ています。吾妻家に新しくやってきた義理の母親に、吾妻さんはうまく甘えることができなかったそうです。

 幼い頃に別れた母親と妹への想いが、強くてたくましいヒロイン像とつながっているのかもしれません。吾妻さんの描く理想の女性像は、母親や妹に元気に暮らしてほしいという願いでもあったのではないでしょうか。マンガ&アニメ大国となった日本のカルチャーシーンのパイオニアであり続けた孤高の漫画家・吾妻ひでおさんのご冥福を改めてお祈りします。

(長野辰次)

【画像】「オタク文化の祖」吾妻ひでおが描く美少女キャラ(5枚)

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