マグミクス | manga * anime * game

映画『毒娘』押見修造×内藤瑛亮監督対談【後編】 「クソムシ」と呼ばれた体験が覚醒のきっかけ

思春期をこじらせた少年少女たちの暴走を描く、人気漫画家の押見修造氏と内藤瑛亮監督。映画『毒娘』で初のコラボレーションを果たしたおふたりに、ご自身の思春期時代を振り返ってもらいました。クリエイターとしての原風景が、思春期時代にはあったようです。女性や子供たちが抑圧されている社会構造についても言及しています。

すべてを拒絶する10代の少女たち

映画『毒娘』ポスタービジュアル
映画『毒娘』ポスタービジュアル

 映画『毒娘』(4月5日より全国公開)で、初タッグを組んだ漫画家の押見修造氏と内藤瑛亮監督との対談後編です。押見氏がキャラクターデザインを担当したヒロイン「ちーちゃん」はどのように映像化されたのか、またおふたりの思春期の思い出も振り返ってもらいます。

ーー実話から着想を得た『毒娘』の凶暴なヒロイン・ちーちゃんですが、『劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ』(2023年)などに出演した伊礼姫奈さんが演じたことで、リアルに映像化されています。

内藤:出資会社はネームバリューのある俳優を起用したいと考えがちですが、ネームバリューのある俳優となると、20代前半になってしまいます。でも、それだと学校に通っていれば中学生のはずの「ちーちゃん」らしい雰囲気がなくなるなぁというのが悩みでした。それで出資会社に「オーディションで選びたい」と頼み、OKをもらいました。

 ちーちゃん役の伊礼姫奈さん、萌花役の植原星空さん、椿役の凛美さんはオーディションで選びました。3人とも10代です。3人にそれぞれちーちゃんを演じてもらったところ、伊礼さんがいちばん怖かった。狂った役を演じようとすると、演技に力が入り過ぎてしまいますが、伊礼さんはすごくフラットに演じてみせたんです。

押見:自分のやっていることを、何でもないことのように振る舞っているところがすごい。ハサミを持って、平然と襲ってくる。

内藤:ハサミは凶器にもなるし、服飾の仕事ではクリエイティブなツールにもなる。それと、僕がフランスのホラー映画『屋敷女』(2007年)が好きというのもありますね(笑)。

ーー押見さんの代表作『惡の華』や『ハピネス』にもつながるヒロイン像ですね。

押見:そうだと思います。

内藤:『惡の華』の仲村さん、『ハピネス』のノラは、僕も大好きです。

押見:ちーちゃんは僕がこれまでマンガで描いてきた少女たちと、共通するものがあると思います。町はずれの河原で何かゴソゴソやっている映画のなかのちーちゃんを観ながら、「あぁ、自分のよく知っている女の子だなぁ」と感じました。あの年代の女の子特有の潔癖さで、すべてを拒絶する力を感じさせます。

内藤:ちーちゃんは怖いだけでなく、憧れてしまう一面もある。萌花役はちーちゃんと双子感のある人がいいなぁと思い、植原さんを選びました。ちーちゃんに触れ、萌花も次第にちーちゃんに侵食されてしまう。佐津川愛美さんが演じた義母の萩乃も影響されます。

 ちーちゃんは閉ざされている家庭を破壊するのと同時に、家の中に閉じ込められていた女性や子供たちを解放する存在でもあるんです。

押見:僕がマンガで描いてきたヒロインたちは、家庭をつくり、子供を産み、社会が繁栄することに、そもそも疑問を持っているんです。なんで従わなくちゃいけないのかと。かつての僕自身がそうでしたが、僕は大人になって、家族をつくり、父親にもなった。

 でも、もともとの問題は解決はしていません。解決できずにいる問題が、今も僕のなかにあるように感じているんです。萩乃や萌花の怒りや世界を拒否する気持ちが、ちーちゃんという形で具現化して現れたのかもしれません。

【画像】え…っ? 「怖い」「すごい実在感」 これが押見修造先生がデザインした「ちーちゃん」の姿です(6枚)

画像ギャラリー

1 2 3