声優・甲斐田裕子さん、「音声生成AI」「倍速視聴」に警鐘 「役者は<余白>を演じている」
インターネット上に声優の声をAIに学習させた無断生成コンテンツが広がっており、プロの声優たちは危機感を募らせているようです。一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)に取材し、生成AIや昨今利用者も多い「倍速視聴」が声優業界に与える影響について訊きました。
生成AIにプロ声優も危機感
加速度的に進む生成AIの成長は、各業界で波紋を呼んでいます。
それは声優業界も同様。昨今、インターネット上に声優の声をAIに学習させた無断生成コンテンツが広がっており、プロの声優たちは危機感を募らせているようです。
今回、アニメーションとその文化の継承・発展・普及を目指す一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)に取材し、生成AIや昨今利用者も多い「倍速視聴」が声優業界に与える影響について訊きました。
声優の声を無断利用する事例が横行
昨今、ネット上で音声を手軽に変換できる「AIボイスチェンジャー」が広まっています。もともとボイスチェンジャーは、主に声を匿名化することを目的に使用されてきたソフトフェアです。近年ではAI技術を活用したものが登場し、より自然な声に変換することが容易になっています。
そんなAIボイスチェンジャーの特性を利用して、通称「AIカバー」と呼ばれるコンテンツが動画サイトで人気を博しています。これは、人気歌手や声優、アニメのキャラクターの声をAIに学習させ、流行りの曲などを歌わせたものです。声優以外にも歴史上の有名人の声を学習させて最近の曲を歌わせるような動画も作られています。
それらのコンテンツの多くは、声の持ち主には許可を得ずに生成されているのが現実です。また、そうした音声コンテンツを作るためのAI音声モデルを無断販売する行為も見られ、特に声優の間で強い危機感が広まりつつあります。
こうした音声の無断学習、販売および利用は何らかの権利侵害になるのではという意見もありますが、法整備が追いついていないのが現状です。
声そのものは著作権では保護されませんが、NAFCAは「声の肖像権」や「パブリシティ権」など、声の権利について法的に体系化されることを望む声明を発表しています(https://nafca.jp/public-comment01/)。
日本の声優は芝居の質も高く、アニメ人気を牽引する重要な存在でもあります。その声を無断で使われ、不名誉な発言を捏造するなどの事例がすでにあり、こうした問題に対処する必要があるとNAFCAは訴えているのです。
生成AIは声優の新たな収益源との期待も?
一方、声優業界のなかでもAIを積極的に活用していこうという動きも活発化しています。
株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントが昨年、AI音声による朗読付き電子書籍「YOMIBITO Plus(ヨミビト・プラス)」を発表。注目すべきは、収録されているAI音声のなかに『北斗の拳』ラオウ役などで知られる故・内海賢二さんの声を学習したものもが含まれていることです(現在は公開を終了しています)。
このプロジェクトには、内海賢二さんが設立し、今は息子の内海賢太郎さんが代表を務める賢プロダクションが協力しています。
ご家族の同意があるとはいえ、故人の声をAIで再現することには倫理的な問題を感じる人もいるかもしれません。賢プロダクションに所属し、内海さんの後輩でもあるNAFCA理事で声優の甲斐田裕子さんはこの音声を聴いて「全然内海さんだと思えない。俳優の芝居や呼吸を再現するのは難しいと思います」とコメントします。
一方でこの試みは、長寿番組の「声優交代」問題にも選択肢を与える可能性を示します。長年続くアニメ作品では、声とキャラクターのイメージがひときわ強く結びつきますが、それ故に、高齢や死去で声優が交代する時にはメディア等で必ず大きく取り上げられ、新たな声に違和感を表明する人も少なくありません。
故人の声と芝居をAIで蘇らせることが可能ならば、この「声優交代」問題が解決可能となります。しかし、以前と比べて人間の声の再現度が高まったとはいえ、現状では芝居をAIが再現できているとは言い難く、違和感は拭えないとの声も多くあります。