漫画『ちはやふる』で描かれる、競技かるたの「変えたい現実」と末次先生の想い
参加者が増え続ける「競技かるた」が抱える課題に取り組もうと、「ちはやふる基金」が2020年1月に設立。発起人であり、マンガ『ちはやふる』の作者である末次由紀先生は、作中のさまざまな場面で競技かるたの現在を描き、メッセージを発信し続けていました。
マンガ本編で語られる「かるた愛」の数々

「競技かるた」に打ち込む高校生の成長を描く人気マンガ作品『ちはやふる』の作者、末次由紀先生が行動を起こし、2020年1月に「ちはやふる基金」が設立しました。『ちはやふる』作中のさまざまな場面で描かれている「競技かるた」の魅力や直面する課題について、少女マンガに詳しい芸人の別冊なかむらりょうこさんが解説します。
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2007年にスタートし、講談社「BE・LOVE」にて連載中の漫画『ちはやふる』は、現在43巻まで刊行されており、累計発行部数は2400万部を超えています。2011年にはアニメ化も始まり、3期まで放送されました。
また、2016年から2018年にかけて、広瀬すずさん主演で映画も3本作られ、いずれも大ヒットを記録。千早や太一、新といった主人公たちをはじめ、登場人物たちの「かるた」に対する情熱は、さまざまな媒体を通して多くの人々の胸を打ってきました。
そして、2020年1月に、作者の末次由紀先生が発起人となり、「ちはやふる基金」が設立。現在の競技かるたが直面する問題に、作者自身が行動を起こしました。
「一般社団法人 ちはやふる基金」の公式サイトで、「ちはやふる基金」末次由紀先生の想いや、設立に至った背景を語った描き下ろしマンガなどが公開されていますが、末次先生は「ちはやふる」マンガ本編のなかでも、競技かるたの魅力とその現実について描かれています。
『ちはやふる』は、競技かるたのクイーンを目指す高校生・綾瀬千早を中心に、個性的な登場人物が織りなすドラマと、躍動感ある競技かるたの描写で人気を集めています。
そこに出てくる、天才と呼ばれる者、彼らの抱える孤独。また天才ではない凡人たちの葛藤、そしてその者たちへの称賛。あまり可視化されることのない、親や先生といった応援者たちの描写も多く、「何になるかわからない好きなものをやること」がどういうことなのか、多角的に感じさせてくれます。
千早たちの師である原田先生は、現役で名人を目指すひとり。常に千早たちを導く存在でありながら、自らの競技中にはこのようなモノローグが。
「君たちは 自分たちが主役の物語を生きてると思ってるだろう? ちがうよ 輝いてる君たちでさえも だれかの物語の一部分(パーツ)だ」(35巻)
千早に百人一首の美しさ教え、つながりを強くしてくれたひとりである大江奏(かなで)。かなちゃんの言葉には、百人一首が800年愛され続けてきた歴史を感じさせてくれるものが多くあります。
「かるたが〝歌〟であることを忘れたくないんです」(4巻)
「私にとってのかるたは〝意味〟ですから」(6巻)
『ちはやふる』の物語と登場人物たちは、競技かるたが年齢も性別も関係なくともに戦える競技であること、そして小倉百人一首の伝統とその美しさ伝えてくれるのです。