「すべて違ってる」「悔しかった」 何が起きた?「原作者が激怒」したアニメ
マンガ、小説などアニメ化で避けたいのが、原作者とのトラブルです。いったい何が原因で、トラブルになっているのでしょうか。過去の事例を、あらためて振り返ってみたいと思います。
キャラクター、美術、考え方、すべて間違っているアニメ?
人気マンガ、小説のアニメ化の際、原作者とのトラブルはなるべく避けたいものです。しかし、作品の解釈やイメージの相違などのせいで、原作者が「激怒」してしまうケースがあとを絶ちません。どのような事例があったのでしょうか。
●『ムーミン』
フィンランドの作家、トーベ・ヤンソン氏が生み出し、小説、コミックス、絵本などで知られる「ムーミン」シリーズは、日本で1969年にアニメ化されました。「ねえムーミン こっちむいて」で始まる主題歌(作詞は井上ひさしさん)も有名です。
視聴者からは好評を博しましたが、完成したアニメを見たヤンソン氏は激怒し、日本のスタッフに手紙を送りつけました。脚本を担当した山﨑忠昭氏が、自著『日活アクション無頼帖』(ワイズ出版)にほぼ全文を掲載しているので、その一部を引用してみましょう。これを読むと、原作者が何について不満を感じ、怒っていたのかがよく分かります。
「まず、出発点からまちがっている。即ち、ムーミン谷、ムーミン的考え方がすべてちがって表現されている」
キャラクターの表現や、過激な描写(戦闘機や戦車を登場させた)などが気に入らなかったのではなく、「すべて」間違っているというのだから驚きです。手紙は美術にも触れています。
「ムーミン家の内部がまたちがっている。部屋が先ず広すぎるし、ガランとし過ぎている。だから一見、事務所のように見える。ムーミン家の部屋は、どちらかと言うともっと小ぢんまりしている。そしてもっと家具が一杯置いてある筈です。古風な家具が一杯……」
細かな部分まで指摘しているようですが、ここが原作者にとって大事な部分なのでしょう。キャラクターのデザインにも異を唱えています。
「ムーミン家の人々は、もっと長い耳である筈。目はもっとたがいにはなれている筈。彼等の手は、いつも短いままでおくこと。たとえば、もし長く手をのばさないとギターが弾けないのなら、ギターはやめてしまう方が良い。とにかく、手はぜったい長くしないこと」
ヤンソン氏が許せなかったのは、原作からの乖離です。
「画家達が良く正しい原型を見ながら描けば、そんなことはない筈です。特に注意してほしいことは、ムーミン家の人々には口はないということ。動画の場合、口が必要なのは判るが、できるだけ小さい口にして誰が今喋っているのか示す位に考え、また使ってほしい。決して、決して歯は描かないこと」
ただ文句をつけるだけでなく、アニメの事情も汲んだ上で、具体的な修正案を指示しているのが分かります。手紙を受け取った山崎氏も、「いやしくも原作者たるもの、文句をつけるにしてもこの位のことは行って貰いたいね」と感心しきりでした。
なお、アニメは1972年にも制作され、再放送も繰り返し行われましたが、1990年に原作者が関わる形で『楽しいムーミン一家』が制作された後は、一切再放送が行われなくなりました。ソフト化も許可されていません。
とはいえ、ヤンソン氏も、後年は『ムーミン』公式サイトで「自分の描いたムーミンと違っていても子どもたちが喜ぶならばそれでいい」と、昭和版『ムーミン』を認める発言をしています。69年版と72年版の『ムーミン』第1話は公式サイトからのリンクで観ることができますので、興味のある方はぜひ視聴してみてください。