「人間不信になりそう」「恐怖がじわじわと…」 読み始めたら終わりな沼マンガ
鬱展開を迎えるマンガは読んでいて落ち込む一方、先が気になってしまう展開のために、つい読み進めてしまう魅力もあります。どうして、鬱マンガは気分が沈むと分かっていながらもページをめくる手を止められなくなることがあるのでしょうか?
読み始めると止まらない
心を抉るような「鬱マンガ」は読んでいると気分が落ち込み、思わず目を背けてしまうシーンもあります。その一方で、つらい展開が描かれていると知りながらも、続きが気になり、読み進めてしまうものです。どんな魅力が読者を惹きつけて、鬱マンガの沼へ引き込むのでしょうか。
※この記事では『住みにごり』『光が死んだ夏』『泥濘の食卓』のネタバレを含みます。
●『住みにごり』
東京の生活に疲弊した主人公の「西田末吉」は、仕事を辞めて実家へ帰ってきました。実家では、何を考えているか分からない無職の兄と、脳出血で車椅子生活を余儀なくされた母親、リストラされた父親が暮らしています。
青年マンガ雑誌「ビッグコミックスペリオール」(小学館)で連載中の『住みにごり』(著:たかたけし)は、恐怖と笑いの独特な作品です。常に気が抜けない、いびつな家族の日常に不気味さと気持ち悪さを感じます。
物語序盤では、兄が通り魔殺人をするという不吉な夢から始まり、兄の異常性が描かれました。しかし、物語が進むにつれて両親や主人公の彼女である「森田」にまで秘密があることが分かり、不穏さが増していきます。
一方で、クスッと笑ってしまうギャグシーンがあるのも本作の特徴です。例えば、胸元が伸びきってしまった兄の斬新すぎる私服や、末吉のふとこぼれるひと言が笑いを誘います。緩急のある世界観に「気持ち悪い」「不気味」と思いながらも、つい読み進めてしまう作品です。
●『光が死んだ夏』
友人の「光」が地元の山で行方不明になった1週間後、ふらっと山から戻ってきました。しかし、戻ってきた光はこれまでの彼とはどこか違います。そのことに気付いた主人公の「よしき」は本人に問いただしました。光ではない別の「ナニカ」から「誰にも言わんといて…」と懇願され、よしきは一緒にいることを選びます。すると、光がすり替わったことで、ふたりが暮らす集落では、さまざまな事件が起きてしまうのです。
『光が死んだ夏』(著:モクモクれん)は、よしきと光に扮した正体不明の「ナニカ」による、異様な関係性が特徴的です。それに加えて、本当に聞こえてきそうなほど想像力をかき立てる「音」が恐怖心をあおり、読んでいて背筋が凍りつきそうになります。
なかには、この作品をBL(ボーイズラブ)とジャンル付ける人もいますが、いまの光を怖がりながらも離れられないよしきと、よしきへ執着しているような行動を取る「ナニカ」の関係性は、「恋」と呼ぶにはあまりにも異質です。ふたりの関係性がどんな結末を迎えるのか、じわじわ来る恐怖とともに楽しめます。
●『泥濘(ぬかるみ)の食卓』
スーパーマーケットで働く「深愛(みあ)」は、奥さんのいる「店長」と不倫をしています。いつか店長と幸せになれると夢見ていた深愛ですが、奥さんの鬱を理由に店長から別れを告げられてしまいました。しかし、店長を諦めきれなかった深愛は、店長の家へ上がり込み奥さんの鬱を治そうと試みます。
不倫や毒親を描いた『泥濘の食卓』(著:伊奈子)は、予想の斜め上をいく深愛の行動に、恐ろしさを覚えながらも先の展開が気になってしまう作品です。
この作品のなかでもっとも恐怖を覚えるのは、深愛が「店長の役に立ちたい」という純粋な想いから行動しているところでしょう。悪意のない深愛の行動はとどまる所を知りません。狙っていたわけではないとはいえ、深愛の行動によって「店長の息子」からも好意を寄せられ、親子の仲がより険悪となり、店長の家庭は崩壊していきます。
ひとつの家庭を崩壊させつつある深愛が次はどんな行動を取るのか、予想ができない深愛の行動は、読者も油断できません。
(LUIS FIELD)