【漫画】隣の同僚の扇風機が自分の机に侵入 「嫌と言えない私」の平和的な解決が「お見事」
隣の席に座る同僚が、勝手に私の机のスペースに扇風機を置いている! はらわたが煮えくり返るような思いをしながらも、なかなかハッキリ「やめて」とは言えない主人公。相手に自発的に気付いてもらうために実行した作戦とは?
直接「嫌だ」と言うのが難しいこともある

主人公のオフィスの机に、隣の席で働く内山さんの卓上扇風機が置かれていました。「確信的侵入行為!」だと感じ、さりげなく扇風機の位置を内山さんの机に戻します。さらにティッシュの箱で「境界の壁」を作りますが、内山さんは再び扇風機をこちらへ押しやり、悪びれる様子もありません。怒りに震える主人公でしたが、家で夫のアドバイスを聞いて試した「作戦」が効果を発揮して……。
職場での悩ましい「あるある」が描かれた、のり漫さん(@noriomanga)の『バイト戦線異常あり!』がX(旧:Twitter)で公開され、大きな反響を呼びました。ずけずけと他人の作業スペースにまで物を置いてくる人には困り物ですが、本作では最終的に穏やかな平和的解決へと至っています。
読者からは「めっちゃ嫌なヤツ相手によく我慢しました!」「表現が面白かった」「有能な軍師だなぁ」「自分はパーソナルスペースに関して無茶苦茶過敏なほうなんで、このシチュだとストレートに言っちゃうけど、このオチはなぜか腑に落ちた」といったコメントが寄せられました。作品の投稿には約1200件のいいねがついています。
作者ののり漫さんに、お話を聞きました。
ーー本作は「扇風機を置かれたこと以外はフィクション」とのことですが、フィクションの部分はどのようにストーリーを思い付きましたか?
扇風機を置かれて、友人に電話で相談したときの回答を盛り込んでいます。「ティッシュケースで壁を作れ」は友人からの助言です。扇風機に扇風機で対抗しようとする流れは夫からアイデアをもらいました。また、人間関係と国と国との関係って同じだなあ~と常々思っており、自然と戦争をオマージュしてお話を作ることになりました。
ーー復讐劇として完結させることもできそうな作品ですが、最終的に「対抗しても争いは止まない」という方向へ物語を進めたのはなぜでしょうか?
復讐したら負の連鎖が生まれてしまう。戦争がまさにそうで報復、報復の応酬……。どこかで止めたいものだよなと思います。完全に相手を悪にするのもしたくありませんでした。
作中では内山さんが好きなフィギュアを置くスペースが必要だったように、相手には相手の正義があります。相手との共通言語みたいな部分でしか通じないことってあるよなあと……。例えば国同士だと共通の利益があれば話が通りやすいとか。人と人の話なので一緒に好きなものを楽しむというほっこり利益にしました。

ーー本作で伝えたかった主題として「言いたいことを言えない人間が存在する」ということが挙げられています。そのことについての作者の思いをお聞かせ下さい。
このマンガは株式会社ゲンロンの「ひらめき☆マンガ教室」の最終講評会に出品した作品なのですが、講評会で編集者の方からもらったのが「置かないでほしいって言えば済むことでは?」とのコメントでした。それで本作の意義が見出せなくなり、SNSでの公開はやめていました。
しかし、時を経て「言いたいことを言えない人間が確かに存在して、心の内はこうなっている」ということが伝わるだけでも意義があるのではないかと気付きました。私自身も、映画や小説の登場人物の心の内を見て「こんな恥ずかしいこと、人として駄目なことを感じていいんだ」って安心することがあります。マンガも「感情の居場所を作るもの」という感覚があります。
ーー作品に対する読者からの反応では、どのような声が特に印象に残りましたか?
「自分だったらすぐに言う」「言って伝えるべき」という反応がたくさんあり、やはり自分はかなり重度の「言えない人間」なんだなーと客観的に思いました。言いたいことを言えないことが、これまでの人生の悩みの根本原因なんじゃないかと深く考えさせられました……。
自分の感情をつかむのにすごく時間がかかるので、言葉に変換するのも時間がかかり、その結果タイミングを逃すという。こういう文章は推敲の余地がありますが、言葉は瞬発力ですもんね。音声配信とかやって練習しようかな……。でも、もう、うまく言えなくても言う勇気を持とうと改めて思いました。
マンガを描くことは、自分の感情を深掘りすることを許される作業なので、すごくありがたい活動ですね。自分の感情をつかむための贅沢で必要な時間なので、マンガはずっと描いていきたいと思っています。
ーーのり漫さんがマンガを描き始めたきっかけを教えて下さい。
自分の結婚式の席次表に4コママンガを描いたのがきっかけです。2016年ですね。
ーー今後、Twitterで発表される作品については、どのように活動していきたいとお考えでしょうか?
X(旧:Twitter)では継続的にマンガを投稿していきたいです。育児マンガ100日チャレンジというのをやって、毎日ではありませんがコンスタントに発表しているんです。そうしていたら応援して下さる方が現れ、ありがたく励まされています。
また私はインプットばかりになると、なんだかモヤモヤが募る性分で。それこそ普段言いたいことがうまく言えないっていうのがあるんでしょうね。小まめにアウトプットすることは自分の心の健康にも良いです。
SNSは難しさもありますが、「分かる」という声に「ああ、伝わった~!」という感覚になってうれしかったり、「マンガを読んで勇気をもらった」という言葉をもらって描いていて良かったと思ったり、自分自身の救いにもなるので続けていきます!
(マグミクス編集部)