『ガンダム』随一のやられ役? 地球連邦軍はなぜ「ボール」を実戦投入したのか
アニメ「機動戦士ガンダム」に登場する「ボール」は、一年戦争末期に大量生産されましたが、ジオン軍の「ザクII」に蹴り飛ばされるなど、戦場で使うには性能不足に見えました。連邦軍はなぜこんな兵器を作ったのでしょうか。
支援用なのにジムよりセンサーが弱い…なぜ?
アニメ『機動戦士ガンダム』に登場した「ボール」は、地球連邦軍が一年戦争末期に投入した支援用兵器です。マニピュレーターを備えた円形のスペースポッドの上部に、低反動キャノン(口径は90mm、120mm、180mm説があります)を装備しただけの簡易的な兵器で、連邦軍は一応「モビルスーツ(MS)」に分類していますが、「モビルポッド」と呼ばれることもあります。
量産型MS「ジム」の支援機とされ、一年戦争終戦までに約1200機も生産されました。民間用のスペースポッドを元として、最低限の推力、装甲を与えた兵器であり、決して高性能ではありません。
マニピュレーターはあくまで作業用で、武器の保持はできないため、ミノフスキー粒子下の接近戦では無力でした。装甲が追加されていますが、申し訳程度のもので、「ザクII」に蹴り飛ばされて破壊された劇中描写が印象的です。蹴ったザクの脚部は壊れていませんので、ボールの装甲や機体強度が脆弱だった証明でもあります。小説『機動戦士ガンダム第08MS小隊』(原案:矢立肇/著:大河内一楼/KADOKAWA)では、地球連邦軍の将兵より「丸い棺桶」「一つ目のマト」などと陰口を叩かれていました。
地球連邦軍はなぜ、そのようなボールを作ったのでしょうか。主力戦闘機「セイバーフィッシュ」ですらザクには通用しないのですから、ボールがジオン軍のMSと渡り合えるはずがありません。
ボールは支援用MSとのことですが、数字が高いほど機動性が高いことを示す「推力重量比」は、ボールが0.48、ジムが1.06です。これはつまり、MSどうしの白兵戦を主な戦闘スタイルとする「ガンダム」を基にしたジムが、率先して突撃し近接戦闘に突入したとしても、ボールはその戦術機動に追従不能であることを示しています。ついでに言うなら、スラスターも全周配備であり、推力効率も悪そうです。
ちなみに試作機であるガンダムは0.925で、劇中の印象とは違ってジムよりも低い数値です。ガンキャノンは0.74、ガンタンクは1.1ですから、ガンダムが突撃しても、支援用のガンタンクは追従可能で、ガンキャノンもある程度まではついていける程度の差であるため、ジムとボールの関係性とは大きく違います。
センサー有効範囲は、ジムが6000m、ボールが4000mですので、ジムがデータを後方に転送しない限り、ジムが発見した敵をボールは正確には認識できない場合がありますから、後方支援もしにくいと思われます。なおガンキャノンとガンタンクはセンサー範囲6000mで、ガンダムの5700mを上回っています。
このような現状から、ボールが「支援機」となったのは、たまたまであり、本来は別の思惑で配備された機体だったのではないでしょうか。
筆者は、連邦軍の想定した戦術の問題だと考えます。