「子供も観られます」←えっいいの? 近年のトラウマ級な過激アニメ映画
毎年何本も「アニメ映画」が公開されるなかで、作品によっては子供向けではない内容で「R指定」になってしまうケースもあります。また、一応子供も観ることができるものの、本編を確認したら「これは年齢制限が甘いのではないか」と思ってしまう作品もありました。
絵柄はかわいいけれど、コンセプトは『地獄の黙示録』?
毎年何本も公開され、日本の年間興行収入ランキングでも上位に入ることが多いアニメ映画は、しかしすべてが万人向けの安心して観られる内容とは限りません。なかには実写のホラー映画よりも恐ろしく、過激に感じてしまう作品もありました。
過激描写が多いと映像倫理機構(映倫)から「R指定」に区分されることもある一方、そうした年齢制限がかかっておらず一応は子供も観られるとはいえ、「大丈夫か」と心配になってしまうほどの「トラウマアニメ映画」もあります。近年も、「PG12指定(小学生の観覧には、親又は保護者の助言・指導が必要)」「G指定(年齢関係なく誰でも鑑賞できる)」の強烈な作品が、いくつも公開されました。
2024年5月31日に公開され、各地で上映中のスペインのアニメ映画『ユニコーン・ウォーズ』(PG12指定)は、一部で大いに話題になっている問題作です。アニメーション作家、漫画家のアルベルト・バスケス氏が手掛けた同作は、かわいらしい「テディベア」と「ユニコーン」たちが主要キャラクターの作品ですが、内容は熾烈な宗教戦争を描く作品であり、ポスターには「『地獄の黙示録』×『バンビ』×『聖書』 混ぜたら、危険!」という強烈な文字が躍っていました。
先祖代々、魔法の森で繰り返されてきたという、ユニコーンとの戦争に参加したテディベアの兄弟を中心に、阿鼻叫喚の地獄絵図が描かれていきます。冒頭からテディベアたちの「男性器」がアップで映され、その後は映画『フルメタル・ジャケット』を彷彿とさせる過酷な訓練も描かれます。
そして、主人公たちの部隊がユニコーンのいる森に入ってからは、危険な幻覚作用のあるムカデを食べた兵士たちが惨劇を巻き起こしたり、ユニコーンの角で貫かれたテディベアたちが臓物をぶちまけたりと、R指定になっていないのが不思議な残酷描写が相次ぎました。
初見では冷静に観られない人も多そうですが、2D風のデフォルメされたテディベアたちとリアルなタッチのユニコーンたちとの対比を際立たせるアニメならではの手法や、森で起きている戦争を見守る「猿」たちの狙いが明らかになる皮肉なラストなど、随所に見どころが多い作品です。監督はパンフレットで「分断がもたらす争い」の無意味さを説く狙いを込めたと語っており、そうした点も含め公開以降、高い評価を受けています。
近年の「反戦」メッセージを込めた作品では、2023年11月の公開から根強い支持を受ける『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(PG12指定)も有名です。水木しげる先生の生誕100周年を記念した作品で、TVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』の第6期をベースに、「鬼太郎」の父「目玉おやじ」の過去を描いた作品で、血液銀行に勤める太平洋戦争の帰還兵「水木」とともに、戦後の田舎の村での恐ろしい物語が繰り広げられました。
名作として支持される一方、鑑賞した人からは「グロに耐性がある人は観て!」「グロがダメ!って人にはオススメ出来ない」という注意喚起の意見もネット上に散見され、さらに物語のメインとなる「哭倉(なぐら)村」と、日本の政財界に君臨する製薬会社の経営一族「龍賀家」にまつわる、おぞましい事実も話題となっています。
父権的な権力体制の極致ともいえる「因習」や弱者たちを虐げる構造、物語の「黒幕」の醜悪な精神性が分かる終盤に関して、各所のレビューでは「血とかは全然グロくないけど設定がグロすぎ」「PG12ごときでしかも題材が子供向け作品でこんなヤバい設定お出ししていいんですか!?て若干引きながらも興奮が止まらなかった」「ゲ謎、起きてることはもうPG12じゃなくてR18でしょ」と、内容と比較して年齢区分に対する疑問の声も数多く挙がる事態となりました。
チリのストップモーションアニメ映画『オオカミの家』は、特に年齢制限はない「G指定」ながら、「とにかく恐ろしい」「気が狂いそう」と話題になりました。同国で1960年代以降、実在した、子供たちを洗脳支配し性的虐待の温床にもなっていたコミューン「コロニア・ディグニダ」を題材に扱った作品です。そういった社会派の要素もありつつ、内容はストップモーションでしかできない独特の演出が連続し、「悪夢的」といっていい世界観が構築されていました。
集落から脱走して森のなかの家で暮らし始めた少女「マリア」と、そこで出会った2匹の子豚を中心に、ストップモーションで各キャラクターの人形や絵、部屋のセットが築かれては壊れていく様が1カット風に描かれており、上映時間の74分間、不穏な描写が続きました。マリアの不安定な精神状態が反映されたかのような、「もの」が動き続ける画面が続き、子豚の「ペドロ」と「アナ」がどんどん変貌してしまう過程や、マリアたちを監視する謎の「オオカミ」の存在も不穏で、ラストも観客にとある呼びかけをして恐ろしい余韻を残します。
ふたり組の監督、クリストバル・レオン氏、ホアキン・コシーニャ氏は、世界中の美術館で実寸大の家の部屋のセットを作り、等身大の人形や絵画を作り、壊していく撮影の過程もエキシビションとして観客に公開しており、試みも斬新なアート映画として話題となりました。
途方もない作業が繰り返された意欲作に対し、ネット上では「高熱の時に見る悪夢ずっと見てる感じ」「異様過ぎるアニメの質感と恐怖に脳が麻痺した」「1時間なので耐えたけど、あと30分観てたら精神状態によっては狂ってたかも」と、かなり「食らってしまった」様子のレビューが相次いでいます。
(マグミクス編集部)