ゲームの発売日といえば木曜?金曜? 時代と事情で移りゆくリリース日の変遷
「ゲームの発売日」は、90年代に大きな転換期が訪れる
●「木曜日発売」のターニングポイントは、1997年にあり
かつては金曜日が多かったゲームの発売日が、なぜ木曜日主体に移り変わったのか。その背景には、ソニー・コンピュータエンタテインメント(現:ソニー・インタラクティブエンタテインメント)の存在が大きいと言われています。
当時のソニー・コンピュータエンタテインメント(以下、SCE)は、「PlayStation」(以下、初代PS)を1994年12月3日に発売し、家庭用向けゲーム機のプラットフォーマーとして本格参入しました。
しかし、初代PSとローンチタイトルの発売日は、木曜日ではなく土曜日でした。また、同月に出た『ツインビー対戦ぱずるだま』(1994年12月9日)、『モータートゥーン・グランプリ』や『KING’S FIELD』(ともに同年12月16日)の発売日は、いずれも金曜日です。1994年12月22日(木曜日)に何本かゲームが発売されましたが、これは23日が祝日(天皇誕生日)だったため前倒したものと思われます。
初代PSの投入直後も、通例の「金曜日発売」はしばらく継続されましたが、1997年の中盤に変化の兆しが訪れます。一部の例外はあるものの、同年の6月までは大半のゲームが金曜日に発売されていました。初代PS向けに発売された『ファイナルファンタジータクティクス』(6月20日)や『QUIZなないろDREAMS 虹色町の奇跡』(6月27日)などがその例で、SCEが販売した『TOTAL NBA ’97』も6月27日の金曜日にリリースされています。
それが同年7月に入ると状況が一変し、『沙羅曼蛇 DELUXE PACK PLUS』(7月3日)、『アーマード・コア』(7月10日)、『モンスターファーム』(7月24日)など、初代PS向けゲームのほとんどが木曜日発売に切り替わったのです。ちなみに、同時期に活躍した任天堂のゲーム機「NINTENDO64」向けのゲームを見ると、『マルチレーシングチャンピオンシップ』や『スーパーマリオ64 振動パック対応バージョン』などが、7月18日の金曜日に発売されています。
初代PS向けゲームの多くが、この時期を境に木曜日発売へと切り替わる──それほどの影響を与える存在は、プラットフォーマーであるSCE以外に考えられません。もし流通全体の問題であれば、「NINTENDO64」のゲームも影響を受けるはずですし、各ソフトメーカーの独自判断であれば、あまりに急な切り替えといえます。ちなみにSCE自身も、同年7月10日に『QUEST FOR FAME』と、17日に『みんなのGOLF』と、いずれも木曜日にゲームを発売しました。
●後に任天堂も動いた「ゲームの発売日」
なぜ、金曜日から木曜日の発売に切り替わったのかといえば、ゲームソフトの媒体が「カートリッジ」から「CD-ROM」に変わったことで再発注しやすくなったため、と言われています。木曜日発売なら、即売り切れてもすぐに再発注をかければその後の週末に間に合うから、といった見方が有力です。
このほかにも、「NINTENDO64」向けのゲームが金曜日発売だったため、それに先んじる狙いで前日である木曜日に移動させた説などもあります。
こうした施策がどれほど有効だったのかは分かりませんが、後に任天堂も木曜日にゲームを発売することが増えました。例えば「ニンテンドーゲームキューブ」の発売後を見ると、『ピクミン』は2001年10月26日の金曜日発売ですが、『動物番長』(2002年2月21日)や『巨人のドシン』(GC版 同年3月14日)はいずれも木曜日発売です。
当時のSCEの影響により、後に任天堂まで動いた「ゲームの発売日」。この時期を機に、全体の流れは木曜日発売が主流になりました。一時期は金曜日発売がほとんどなくなり、木曜日の次に多いのは土曜日、という年代もあったほどです。
しかしその流れも2010年代後半に再度変化が訪れ、金曜日に発売するゲームはやや増加傾向に転じました。主流は変わることなく木曜日ですが、特に任天堂は大半のタイトルを金曜日発売に再度切り替えていきました。
こうした流れはいまも受け継がれており、「ゲームの発売日」はいまも木曜日が最もポピュラーではあるものの、任天堂は金曜日の発売が多く、また他社も状況やタイトル次第で木曜日以外を選択する場合が少なからずあります。
いまのところ、「ゲームの発売日」は木曜日が主流です。しかし、いずれまた変革を迎える可能性はゼロではないでしょう。「ゲームの発売日が木曜だった時代もあったんだね」と言われる日が、いつかくるかもしれません。
(臥待)