みんな信じた?『プロレススーパースター列伝』の大胆過ぎる「ファンタジー」
オット! 昔やられた宿敵に教えちゃソンだ

●ミル・マスカラスにアズテカが教えた「ウラウナ火山の鉱泉」
「仮面貴族」の異名を持つ人気覆面レスラー、ミル・マスカラスの華麗なる空中殺法と、入場曲「スカイ・ハイ」に心踊らされたファンは多いことでしょう。
『プロレススーパースター列伝』では、マスカラスの大ピンチが描かれています。マスカラスの人気ぶりをねたんだアメリカ人レスラーたちにバトルロイヤルでリンチされ、右ひざを複雑骨折する重傷を負ってしまったのです。
もはや再起不能かと弱音を吐くマスカラスのもとへやってきたのが、かつてマスカラスに叩きのめされた悪役王の「不死身仮面」ことアズテカでした。いきり立つ実弟のドスカラスを尻目に、アズテカはこんな独り言をつぶやきます。
「ウラウナ火山の頂上近い西側に ごくぬるい鉱泉がわいてるが…… なぜかこれが魔法のように打身 骨折にはよくきくんだよな おれは骨折するとすぐでかけたっけよ オット! 昔やられた宿敵に教えちゃソンだ あばよ!」
そして、鉱泉に出かけた2週間後、マスカラスはウラウナ火山の岸壁を宙返りしながら駆け下りることができるほど回復していました。マスカラスはアズテカを「すばらしいアミーゴ(友)」と認めて、感謝を捧げています。
素晴らしい友情のエピソードですが、マスカラスが鉱泉で骨折を治したことも、ライバルだったアズテカの存在も、ウラウナ火山という地名さえも、すべて梶原先生が創作したファンタジーでした。
●『プロレススーパースター列伝』から学んだこと
ほかにも『プロレススーパースター列伝』には、幾多のファンタジーが盛り込まれています。筆者は以前、「ザ・ファンクス編」に登場するドリーにプロレスをやめるよう迫った恋人「バーバラ」の存在をテリー・ファンク本人に確かめたことがありますが、「誰だい、それは」と大笑いされたことがありました。
しかし、ファンタジー、つまりウソが多いからといって、『プロレススーパースター列伝』はけっして唾棄すべき作品ではありません。
ブッチャーが地獄突きを学んだエピソードから、何事も必死に取り組めば道が開けるということを学んだ子供たちだっていたはずです。パリの怪奇プロレスから、華やかなものには裏の顔があることを学んだ子供たちもいたでしょう。マスカラスとアズテカのエピソードからは、友情の素晴らしさや人は見かけによらないものだ、と学んだ子供もいたのではないでしょうか。
何より、プロレスは虚実皮膜のエンターテイメントであること、ウソを大いに楽しみ、真実だと喧伝(けんでん)されているものを疑うことを教えてくれたのも『プロレススーパースター列伝』だったのです。今あらためて読む価値のある作品だと、強く思います。
(大山くまお)




