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体臭イジリ、裏ビデオ… コンプラ違反だらけの『稲中卓球部』はなぜ愛され続けるのか

過激なギャグとタブー破りだけじゃない? 『行け!稲中卓球部』の人気の裏に隠された真実について考えてみました。

時代を超えて愛される名作ギャグ漫画

1993年に発売された『行け!稲中卓球部』第1巻 著:古谷実(講談社)
1993年に発売された『行け!稲中卓球部』第1巻 著:古谷実(講談社)

『行け!稲中卓球部』(以下、稲中)といえば、ギャグマンガの金字塔として高い評価を受ける一方で、過激なギャグ表現のせいで表立って語りづらい作品として知られています。その稲中がいまもなお愛されているのは、なぜなのでしょうか。

●時代に左右されないテーマを扱う稲中

『稲中』の面白さは非常に複合的です。オゲレツギャグあり、青春あり、友情あり、ちょいエロありエピソードの数々は毎回読者を飽きさせません。大手ECサイトのコメント欄を見ると高評価とともに「くだらなくていい」「シュール」「下品」「中二病」など、無数のほめ言葉(?)で埋め尽くされているのが見て取れます。『稲中』の読者なら、これらの感想にきっと共感できるはずです。

 ギャグには賞味期限があります。特に時事ネタを扱ったギャグは話題性が高く、爆発力がある反面、同時代を生きた人でないとその面白さが伝わらない弱点があります。例えば『銀魂』の芸能ネタ(号泣会見など)は、2050年代の読者には何が面白いのか理解不能になってしまうでしょう。

 その一方で『稲中』のギャグには普遍性があります。体臭イジリや「はみちんサーブ」、裏ビデオ視聴、ホームレスなどのネタは「良い悪い」は別として、いつの時代も通じるタブー(禁忌)に触れるお下品な面白さがあります。

●実は男同士の友情を描いた作品

 稲中の魅力は下品なギャグやタブーなテーマ、シュールな絵柄だけではありません。実はそれらのギャグを成立させる強力な基盤があります。それは時代を超えて普遍的な「思春期の男同士の共感と連帯」です。

 男子中学生がバカなことを思いついたり実行したりする、という点ばかりが目立ちますが、逸脱行為ができるのは、「前野」と「田中」、「井沢」の3バカトリオ間に「コイツらの前なら、あるいは一緒だったらすべてをオープンにしても大丈夫だ」という絶対的な心理的安心感があるからでしょう。

 この点において同じ部員でありながらも常識人の「竹田」と「田辺」には明確な一線があります。女子部員の「神谷」と「岩下」に至っては完全に蚊帳の外です。前野と田中、井沢には揺るぎない友情があるため、世間的なタブーな話題を含む、あらゆる悩みや疑問が共有できるのです。『稲中』のシュールなギャグの基点はここにあります。

 本来ならひっそり心の中にしまっておくべき問題や思いつきが、3バカの間で共有され、そこからシュールな妄想が広がったり、無茶苦茶な行動力とワル乗りで思いつきが実行に移されてしまったりする展開が『稲中』ギャグの王道パターンだといえるでしょう。

 タブーを恐れない下品でシュールなギャグを安心して連発できる男同士の関係性こそ、『稲中』が30年にわたって多くのファンに愛されている隠された理由ではないでしょうか。実は『稲中』はオゲレツギャグマンガではなくブロマンス(男同士の友情)マンガだったのかもしれません。

(レトロ@長谷部 耕平)

【画像】能面ぶりがそっくり? こちらはおでこがツルピカな前野です(6枚)

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