マグミクス | manga * anime * game

『AKIRA』単行本の追加エピソードに「どういう意味?」 浮かぶ“マンガの神様”の影

刊行が始まった大友克洋全集版『AKIRA』はできうる限り連載当時と同じ形で収録するそうです。『AKIRA』が、単行本化の際に加筆や修正、削除や入れ替えなど相当に手を加えているのは有名ですが、そのなかで一番大きな変更は連載完結から3年後、単行本の最終6巻で最終回に追加された30ページ以上にわたるエピローグでしょう。

「大友克洋全集」で『AKIRA』の刊行開始!

KCデラックス版『AKIRA』第1巻(講談社、1984年9月14日発売)
KCデラックス版『AKIRA』第1巻(講談社、1984年9月14日発売)

 去る2024年8月30日、ついに「大友克洋全集」でマンガ『AKIRA』の刊行が始まりました。『AKIRA』といえば1982年に連載を開始し、読者はもちろん漫画家さんにも強烈な衝撃を与えて数多くのフォロワーを生み出した、日本マンガ史においての金字塔とも言える作品です。

 単行本も、1984年の第1巻発売以降、全6巻すべてがいまだに現行商品として販売されていますが、今回の大友克洋全集版はできうる限り連載当時と同じ形で収録するそうです。『AKIRA』が、単行本化の際に加筆や修正、削除や入れ替えなど相当に手を加えているのは有名ですが、そのなかで一番大きな変更は連載完結から3年後、単行本の最終6巻で最終回に追加された30ページ以上にわたるエピローグでしょう。

 ともすれば結末の印象が真逆になりかねない内容のエピローグなのですが、巻末の謝辞で掲載誌の「週刊ヤングマガジン」編集部と講談社の面々、スタッフ、読者と並んで挙げられたある漫画家さんの名から、いろいろと推察できることがあります。

 その漫画家は「手塚治虫」。『AKIRA』が、横山光輝さんの『鉄人28号』をモチーフのひとつにしているのは有名ですが、ここでなぜ? 今回は手塚治虫をキーワードに、『AKIRA』のエピローグに込められた意図を考えたいと思います。

※本稿はマンガ『AKIRA』のネタバレを含みます。予めご了承下さい。

 まずはご存じの方も多いでしょうが、マンガ『AKIRA』のあらすじを説明します。物語は、1982年に関東地方で「新型爆弾」が炸裂する場面から始まります。第三次世界大戦を経て、ようやく世界が復興を始めた2019年、新首都「ネオ東京」でバイクに興じる職業訓練校の生徒「金田」を中心とするチームは、旧市街の高速道路を暴走中に不思議な能力を持つ少年「タカシ」と遭遇します。

 タカシの能力で負傷し、軍によって連れ去られた仲間「島鉄雄」の行方を探すうちに、金田は能力を持つ子供たち「ナンバーズ」と先の大戦の引き金となった謎の存在「アキラ」をめぐる、「ケイ」たち反政府ゲリラと政府の争いに巻き込まれていきます。

 一方、軍の研究所でナンバーズ同様の「力」を得た鉄雄は、金田への対抗心も加わり冷凍封印されていた少年アキラを解放。ネオ東京で、軍と反政府ゲリラとアキラを崇める教団によるアキラ争奪戦が繰り広げられるなか、タカシの死をきっかけにアキラはかつて東京を壊滅させた「力」を再び覚醒させて、ネオ東京を崩壊させてしまいました。

 そして廃墟と化して無政府状態となったネオ東京で、鉄雄はアキラを「大覚」と崇める「大東京帝国」を立ち上げ、退廃的で非道な行為に溺れていきます。そんな鉄雄を止めるため、金田とケイたちは彼らの拠点であるオリンピックスタジアムへと乗り込み、最後の対決を迎えるのです。

 大東京帝国民とケイたち、そしてアキラ抹殺のために潜入していたアメリカ海兵隊の乱戦の果て、鉄雄と対峙した金田は、「力」が暴走して人としての形を失った彼のなかに取り込まれてしまいます。

 鉄雄の「力」の被害が地球規模にまで及びそうになった時、アキラとナンバーズの子供たちは「力」で創造した新たな宇宙へと鉄雄を連れていきました。ケイの「力」を借りて寸前で鉄雄のなかから帰ってきた金田は、彼女とともに鉄雄もアキラもいなくなった廃墟のネオ東京に昇る朝日を見つめるのでした。

 ……と、連載時の『AKIRA』は、ここで終了します。

『AKIRA』の世界観は、終戦後から連載当時までの東京を土台にしていると言われています。連載開始時の1982年に終戦の1945年からの年月(=37年)を足した2019年を舞台にしているのは偶然ではないでしょう。

 ネオ東京は、戦災で焼け野原になりながらも強かに復興し、高度成長期や学生運動の騒乱、バブル経済を経た東京の戦後史を凝縮した姿です。古いものを取り壊し、その上に新たなものを作り上げていく、日々更新されていく街並み。破壊と再生を繰り返しながら発展してきた東京が秘めたバイタリティとカオス。『AKIRA』の世界には、それらがあふれています。終盤の鉄雄のメタモルフォーゼも、周囲へ膨張しながら発展していく東京のメタファーのようにも感じます。

 そして、この連載版の結末は、三度目の新生のための破壊が終わり、まっさらになったネオ東京での金田たちの再出発を予感させるものでした。

 そして3年後に刊行された最終巻6巻「PART6金田」では、その後の金田たちの姿が描かれたのです。

【中止だ中止!】こちらがおなじみ「AKIRAの予言」といわれるカット(4Kリマスター版)です!画像を見る(3枚)

画像ギャラリー

1 2