なんか2秒だけいたぞ!『トトロ』に出てくる「謎生物」覚えてる、ていうか気付いてた?
国民的名作『となりのトトロ』は、誰もが知る作品ですが、劇中にほとんどの人が知らない「謎の生き物」が潜んでいることに、気付いていましたか?
絵コンテでも分からない「こいつら」は何者なのか?
宮崎駿監督の名作『となりのトトロ』の劇中で、ほんの数秒しか映っていない「謎の生き物」をご存じでしょうか。もちろん「トトロ」のことでも、「ススワタリ(まっくろくろすけ)」のことでも「ネコバス」のことでも、定期的にSNSで話題にあがる「本来ないはずの上側にも前歯があるヤギさん」のことでもありません。
その「謎の生き物」が登場するのは、『トトロ』の終盤でした。行方不明になってしまった妹「メイ」を探すため、サツキが祈るように「お願い。トトロの所へ通して」と塚森へと踏み込むシーンを注意深く観てみましょう。木のトンネルを進むと、ざわざわとススワタリたちが移動して目を開けサツキを見送ります。
その次のカットです。画面右に何やらキノコのような、クリーナーブランド「スクラビングバブル」のキャラ「バブルくん」にも似た白い生き物が3匹おり、そのまますいーっと画面上へと消えていきました。その間、わずか2秒です。
いったい、こいつらは何者なのでしょうか。
たとえば、この映画が『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』のように、世界設定自体がファンタジーに振れている作品だったら、急にそんな生き物が登場しても驚きません。ただ、『トトロ』の場合は別です。
『トトロ』は昭和30年代の日本が舞台であり、架空の生き物が暮らす世界ではありません。だからこそトトロ、ネコバス、ススワタリといったキャラクターが際立つのです。そのなかに、突如として出現したこのイレギュラーな生物は何なのでしょうか。
広大なネットの海においても、彼らに言及している記事やコメントは数えるほどしかなく、今も「トトロ死神説」が跋扈(ばっこ)しているばかりです。この説は好奇心をくすぐるものでありましたが、2007年の時点でジブリ広報部が公式に否定コメントを出しています。
となれば、「絵コンテ」です。幸いにも、『となりのトトロ』は絵コンテ集が発売されています。絵コンテには劇中に収まりきらなかった情報が、豊富に書き込まれているのできっと正体が分かるはずです。
たとえばメイの「あなたトトロっていうのね!」というセリフに対し、トトロが「ヴォオオ」と応じたとき、本当は「わかりません」と言っていたことが絵コンテには記されていました。なんて頼もしい「絵コンテ」でしょうか。さあ、さっそく例の「白いスクラビングバブル」が登場する場面の絵コンテを見てみましょう。
カット番号でいえば、「857」の場面が例のシーンに該当します。やつらはどのように描かれているのか、見てみると……記載なしでした。絵コンテの該当部分に、筆者が先ほどから主張している「謎の生き物」が描かれていません。これは、どういうことでしょうか。試しに今一度、映像を確認しましたが、やはり「謎の生き物」はいました。これはどう解釈すればよいのか、宮崎監督にしてやられたのでしょうか。
落ち着いて、引き続き「絵コンテ」を読み込みましょう。
この怪現象のヒントになるのが、直前のカットです。木のトンネルのなか、たくさんのススワタリがサツキを見送るシーンの絵コンテの横に、はっきりと「これでススワタリの出番オワリ」と記されています。わざわざ書いてあるということは、次のカットの「謎の生き物」たちは少なくともススワタリではないことになります。
当時の制作現場の作業フローの詳細は分かりません。したがって「絵コンテのみ」で私見を述べるなら、例の謎の生き物は、本来ススワタリを描き足そうとしたけれど、何らかの理由で「出番オワリ」となったススワタリの代役として描かれたものだった、と考えることもできます。ただ、仮にそうだったとしても、依然としてやつらの正体は不明のままです。
まったく、子供のときだけでなく大人になってもまた不思議な出会いが訪れるのが、『となりのトトロ』なのです。そういうことなのです。
参照:『となりのトトロ スタジオジブリ絵コンテ全集<3>』
(片野)