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『ガンダム』に見るパイロットとテストパイロットの違い(或いはクリスの全力擁護)

「ガンダム」シリーズには、「テストパイロット」という肩書の人物が少なからず登場します。彼らは普通のパイロットとどう違うのでしょうか。『ポケットの中の戦争』のヒロイン、クリスを例に見ていきます。

テストパイロットに求められる資質とは?

『ポケットの中の戦争』のヒロイン、クリス。「美樹本晴彦 ガンダム画集 INTO THE SKY」著:美樹本晴彦(KADOKAWA)
『ポケットの中の戦争』のヒロイン、クリス。「美樹本晴彦 ガンダム画集 INTO THE SKY」著:美樹本晴彦(KADOKAWA)

「ガンダム」シリーズにおいては、新型の特別なモビルスーツ(MS)を扱うことが多いという特性上、主人公クラスの人物がテストパイロットとして登場することは少なくありません。例えば、『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』の「コウ・ウラキ」や、『機動戦士ガンダム MS IGLOO』に登場する多くのテストパイロットたち、そして『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』の「クリスチーナ・マッケンジー」(クリス)などが挙げられます。

 特にクリスは、一年戦争において最も高性能なモビルスーツ(MS)とされる「ガンダムNT-1 アレックス」を操縦しながらも、「バーニィ」こと「バーナード・ワイズマン」の操縦する「ザク」と相打ちになったことで知られています。このため、「テストパイロットなのに情けない」といった声も聞かれることがあります。

 一般的に「テストパイロット」と聞くと、普通のパイロットよりも優れた技量を持つ者たちというイメージがあるかもしれませんが、実際には必ずしもそうではありません。

 テストパイロットの仕事は、これまでにない新しい機体や装備をテストし、その性能を正しく評価することです。そのためには、正確な操縦技術だけでなく、テスト方法の選択や評価、トラブル対処のために、テストする装備品や機体のシステムや原理についての深い知識と理解が不可欠です。操縦した結果やフィーリングを開発者に伝えるためには、工学的な知識も必要となります。

 一方で、実戦部隊のパイロットは必ずしもこうした知識を必要としません。極端に言えば、「操縦桿を引けば回る」ということだけ知っていれば、それがなぜそうなるのかを知らなくても戦技を極めることは可能です(もちろん知っていればより良い)。また、指揮官であれば、組織を動かすための別の専門的知識が求められます。

 このように、実戦部隊のパイロットとテストパイロットは、求められるスキルが大きく異なる、文字通り似て非なるお仕事です。

『ポケットの中の戦争』公式サイトのキャラクター紹介によると、クリスはシステムエンジニア兼テストパイロットであり、工学的知識を持ったパイロットであることがうかがえます。また、連邦軍にはほんの数か月前までMS自体が存在しなかったことを考えると、クリスがMSによる実戦訓練を受けていた期間はほぼないに等しいと考えらるでしょう。

 まともな訓練を受けていないクリスに実戦での戦果を期待すること自体が間違っているといえるかもしれません。もっとも、それは速成訓練しか受けていないと推定されるバーニィも同様ですが、クリスは自分の専門外の分野(戦闘)でもザクを止めるという目的自体は達成しているのですから、あまり貶めるのも酷である、ともいえるのではないでしょうか。

 ちなみに、筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)の知人である自衛隊のテストパイロットによれば、テストパイロットには「飛行機マニア」のような人が向いているといいます。「ガンダム」シリーズにもMSマニアのパイロットが登場しており、彼らがテストパイロット向きであると聞くと、納得できる部分があるのではないでしょうか。

(関賢太郎)

【画像】こちらが「ガンダムを倒したザク」です

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