原作者激怒!? 日本テレビ版『ドラえもん』が封印された「本当の理由」を考える
ワールドワイドな人気を誇る国民的コンテンツ『ドラえもん』には、原作者が激怒したという「封印された幻の映像作品」がありました。「旧ドラ」「日テレ版」と呼ばれるアニメです。なぜそのようなことになってしまったのでしょうか。
アヒル型ロボットがレギュラー? ジャイアンの母が故人?
藤子・F・不二雄先生(以下、F先生)原作のアニメ『ドラえもん』は、1979年からテレビ朝日系列で放送されて大ヒットを記録しました。2025年には、声優が水田わさびさんたちに交代してから20周年を迎え、さらなる盛り上がりが予想されています。
ところで、ファンにはよく知られている話題ですが、『ドラえもん』はテレビ朝日版の前に一度アニメ化されています。1973年に日本テレビ系列で放送されたもので、「ドラえもん」の声を富田耕生さん(後に野沢雅子さんに交代)、「のび太」の声を太田淑子さんが演じていました。
一番威張っているのが「ジャイアン」ではなく「スネ夫」だったり、原作のごくわずかな話数にしか登場しないアヒル型ロボット「ガチャ子」がレギュラー化していたり、のび太のママが優しかったり、「しずか」の家にお手伝いがいたり、ジャイアンの母親が故人になっていたりと、日本テレビ版は後のテレビ朝日版と異なる点が多く見られます。
日曜の夜7時からというゴールデンタイム枠を得るも、放送途中に社長の失踪が原因で制作会社の日本テレビ動画が解散してしまうなどのトラブルに見舞われ、放送は半年で終了してしまいました。
その後、何度か再放送されましたが、1979年以降は一度も再放送は行われておらず、ソフト化もされていません。現在は映像を観ることができない「封印」状態となっています。ドラえもん公式サイトでも日本テレビ版については触れられていません。F先生が作品の出来に激怒したから封印されたといわれていますが、果たして本当でしょうか?
●「原作とは似て非なるもの」「放送して欲しくない」
日本テレビ版『ドラえもん』の封印については、ジャーナリストの安藤健二氏が著書『封印作品の謎 TVアニメ・特撮編』(2016年、彩図社/初出『封印作品の憂鬱』2008年、洋泉社)で詳細な経緯を取材しています。
まず、F先生がどのような言葉を残したかをおさらいしてみましょう。F先生は日本テレビ版について、「本来のドラえもんの持ち味を出していない作品であり、作品のイメージとはかけ離れたものであった。(中略)作者としては気に入ってなかった」「以前やったのは非常に悔いが残る」などのコメントを残していたことが関係者を通じて明らかになっています。
なかでも決定的だったのは、テレビ朝日版の放送が始まった1979年に富山テレビ放送が日本テレビ版の再放送を始めたとき、「私が作った原作のイメージと全然違うし、放送して欲しくない」「原作とは似て非なるものだ」と表明したことです。日本テレビ版の再放送は即座に打ち切られ、これ以降は再放送が一度も行われていません。F先生のファンの間では「富山事件」として語り継がれています(発言はすべて前掲書より)。
やはりF先生が日本テレビ版に強い不満を抱いていたことは間違いないようです。日本テレビ版は後にフィルムが見つかっており、著作権さえクリアできれば何らかの形で放送、上映、配信などを行うことができるものの、原作者のF先生が「もう放送して欲しくない」と言った以上、封印せざるを得ないのでしょう。
では、なぜF先生はそこまで日本テレビ版を忌み嫌ったのでしょうか?