原作者激怒!? 日本テレビ版『ドラえもん』が封印された「本当の理由」を考える
日本テレビ版と原作の最大の相違点

日本テレビ版と原作で大きく異なるのは、のび太の解釈です。
映像を見た安藤健二氏は「のび太は確かに運動能力は低いし成績も良くないが、性格的には活発で元気な少年だった。ジャイアンやスネ夫と口げんかをしたり、ドラえもんを怒鳴りつけたりと、原作以上に威勢が良かった」と記していました。原作とテレビ朝日版でよく知られる何をやってもダメで気弱なのび太像とは大きく印象が異なっています。
のび太役の声優は太田淑子さんが務めていました。太田さんはF先生原作の『新オバケのQ太郎』で快活な「正太」役を演じており、のび太役のオーディションはなかったそうです。太田さんの跳ねるような声による元気で活発なのび太は容易に想像できます。その後、テレビ朝日版ではやはり活発なセワシを演じました。
日本テレビ版で脚本を務めた鈴木良武氏は『封印作品の謎』でのインタビューで、のび太の性格を自分たちで改変したと明かしています。
「のび太の性格があまりにも、ドラえもん頼りだったものだから、僕らは『のび太の性格をもう少し自主性を持った少年にしようか』という方向で始めた番組だったんです」
スタッフ一同は放送前の打ち合わせで「活発で元気なのび太」という方向性で行くことに決めていました。F先生からのクレームはありませんでしたが、鈴木氏は「藤本先生(筆者注:F先生)としては原作の思い通りになってないと感じていたんでしょうね」と振り返っています。
●深い思い入れのある「ダメで気弱なのび太」
ドラえもんがドタバタしているのも、ガチャ子が登場するのも原作どおりでした。しかし、活発で元気なのび太は原作からかけ離れています。「何をやってもダメなのび太がドラえもんを頼り、ひみつ道具を出してもらうが、結局トラブルを起こしてしまう」……これがある時期からの『ドラえもん』の基本的な骨格です。日本テレビ版はその意味で、F先生が言うように「原作のイメージと全然違う」ものになっていました。
「子どもの頃、僕は“のび太”でした」というF先生の有名な言葉があります。小学校の入学式でおもらしをして笑いものになり、かけっこも鉄棒も飛び箱も大の苦手、いじめられっ子で劣等感のかたまりだったF先生は、のび太に深い思い入れがありました。
F先生入魂の作品だったのに打ち切られてしまったこと、再起を期したテレビ朝日版の邪魔になったこと、社長失踪など日本テレビ動画の不祥事など、「封印」に関してはさまざまな要因が考えられますが、やはりF先生は作品の根幹を変えられてしまったことに忸怩(じくじ)たる思いがあったのではないでしょうか。
とはいえ、今となっては元気で活発なのび太とオヤジ声で話すドラえもんも観てみたい気がします。いつか封印が解かれることを期待して待ちたいと思います。
(大山くまお)