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『千と千尋の神隠し』両親が毒親ってホント? 『トトロ』『魔女宅』と異なる強すぎる「個」の影響か

「親として非常識すぎ!」「娘の扱いがひどい!」「子供に冷たい!」。一部で非難の声が上がっている『千と千尋の神隠し』の両親は、本当に毒親なのでしょうか。

野放図な父親とクールな母親

美味しそうなごちそうをどんどん胃袋に放り込んでいく、父親と母親。画像は『千と千尋の神隠し』静止画 (C)2001 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDDTM
美味しそうなごちそうをどんどん胃袋に放り込んでいく、父親と母親。画像は『千と千尋の神隠し』静止画 (C)2001 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDDTM

『千と千尋の神隠し』に登場する「千尋」の両親に対し、一部で「親として非常識すぎ!」「娘の扱いがひどい!」「子供に冷たい!」という声が上がっているそうです。

 確かにこの映画を観てみると、引越し先のニュータウンへと車で向かう父親の運転が非常に荒く、狭い山道も爆走したりするので、観ているこちら側がハラハラしてしまいます(ちょっと『ルパン三世 カリオストロの城』のカーチェイスを思い起こさせます)。とても家族連れのドライブとは思えません。

 やがて不思議なトンネルを発見した父親は、「行きたくない!戻ろうよ!」と叫ぶ千尋を無視してどんどん先に進み、母親も「千尋は車の中で待っていなさい」と娘を残して付いていってしまいます。やがて人気のない「異界」にたどり着くと、美味しそうな食事が並ぶ食堂を発見し、「そのうち(誰か)来たら、お金を払えばいいんだから」と勝手に料理を胃袋に放り込んでいきます。

 この父親像について、作画監督の安藤雅司さんはこんなコメントをしています。

「お父さんについては、野放図なというか、ちょっと無神経なところを持っていて、ずかずかと先に進んでいってしまうような感じをイメージしていました。それでいて娘を溺愛している。そんなキャラクター性を出そうとして設定を描いていったら、だんだん典型的な体育会系の人に落ち着いてしまいました」

 確かにこのお父さんは、「デリケート」とか「繊細」とは無縁の、典型的なガハハ系おじさんといえるでしょう。とはいえ、娘への愛情は画面からも伝わってきます。一方の母親に対して、声優を演じた沢口靖子さんはこうコメントしています。

「割烹着を着た子ども思いのお母さんをイメージしていたのですが、そうではなくて、あまり子どもにかまけずに、どちらかというと旦那さまとまだまだ恋人気分を味わっている女性なんだなと思いました」

 この「子どもにかまけない」というのが、千尋に対して妙に冷たくみえる要因といえるかもしれません。ネット上では、「実は母親は父親の再婚相手。だから血のつながっていない千尋にそっけない態度なのでは?」という考察も見られるくらいです。

 作画監督の安藤雅司さんのコメントもみてみましょう。

「お母さんは、クールで、家族の和が乱れるところにいない人。『しっかりしなさいよ』と言いながら、ちゃんとお父さんについていく。しかも茶パツで、イヤリングつけていたり、口紅とか化粧もそれなりにして自分を持っている」

 そして安藤雅司さんは、こうも語っています。

「デザイン的にはけっこう苦労しましたね。これも一つには宮崎さんの作品に出てくる典型的なお父さん、お母さんではなくしたかったので」

 この「典型的なお父さん、お母さん」というのは、『となりのトトロ』や『魔女の宅急便』に登場する、優しさと慈愛に満ちた両親のことを指して言っているのでしょう。そう考えると、『千と千尋の神隠し』の場合は、キャラクターとしての「個」が強すぎるために、子供に対する態度がネグレクトっぽく映ってしまうのかもしれません。

 おそらく『崖の上のポニョ』に登場する無鉄砲な母親のリサは、『千と千尋の神隠し』の父親を引き継いだキャラクターです。海沿いの曲がりくねった道路を、彼女が軽自動車で駆け抜けるシーンは、そのまま『千と千尋の神隠し』の父親の運転シーンと重なります。彼らは毒親というよりも、宮崎アニメの典型的父親・母親像から離れたことで、強烈な個性が付与されたと考えるべきなのではないでしょうか。

(竹島ルイ)

【画像】何度見ても「鳥肌止まらん…」 こちらがちょっと気持ち悪いブタ姿の千尋父です(3枚)

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