当初「ドラえもん」の好物は“どら焼き”じゃなかった? 第1話では別の食べ物をほおばっていた
ドラえもんの大好物はどら焼きですが、それはいつからの設定なのでしょうか? 単行本と初出年を照合してみていきます。
「どら焼き」も「おもち」も大好きだけれど…どら焼きはあとから?
『ドラえもん』(作:藤子・F・不二雄)は、原作マンガをはじめ、アニメや映画、勉強の教材など幅広いところで使われ、多くの人から親しまれています。そしてこの作品に登場する「ドラえもん」の大好物といえば「どら焼き」でしょう。
アニメでもなにかと「どら焼き」が登場しては、おいしそうにほおばったり、ときに食べ損なって激怒したりと印象的に描かれてきました。最近でもNintendo Switchの『ドラえもんのどら焼き屋さん物語』が大きな話題を呼んでいますが、「どら焼き」は『ドラえもん』という作品世界にとって切っても切り離せないモチーフです。何なら「どら焼き」というお菓子自体が『ドラえもん』由来のものと小さい頃に思っていた方もいるのではないでしょうか。
では、ドラえもんはいつからどら焼きが好きなのでしょうか。『ドラえもん』は複数誌で連載されており、私たちの知る単行本は連載をそのまま収録したものではありません。したがって時系列が前後することが多いのですが、便宜上、本記事においては巻数を時系列の目安にして「どら焼き」にハマる時期をみていくことにします。
例えば「てんとう虫コミックス」1巻の第1話「未来の国からはるばると」では「おもち」をそれはそれはおいしそうに平らげますが、どら焼きは登場しません。第2話「ドラえもんの大予言」でもまんじゅうのようなものをほおばっておりますが、どら焼きではないようです。
その後も「おかし」というなんだか「丸い概念的」なものが登場する話を挟みつつ、第13話「○○が××と△△する」という「かならず実現する予定メモ帳」が登場するエピソードで、唐突にどら焼きが登場します。急に具体的なお菓子が登場し大喜びする描写からも分かるとおり、こちらのエピソードは第1話「未来の国からはるばると」の雑誌初掲載から4年後の1974年に発表されたもので同じ第1巻でありながら、発表時期にかなりの隔たりがあるのです。
とはいえ、一応、現在、手に入るコミックスにおいては第1巻時点で「どら焼き」に喜ぶ描写を確認できる仕様となっています。(設定を整備するための構成とも捉えることができそうです)。
この「○○が××と△△する」より前に描かれたエピソードで「どら焼き」が登場する話を2巻以降から拾っていきましょう。とはいえ、これがなかなか登場しません。第2巻8話「タタミのたんぼ」で再び「おもち」が登場します。のび太くんと取り合うほどの執着ぶりを見せるので、その愛はどら焼きに負けずとも劣らずと言って良いでしょう。
第3巻11話「スケジュールどけい」でようやくおやつのどら焼きに歓喜するドラえもんが確認できました。(こちら初出は1973年)。こうして単行本ベースで確認すると少なくとも最初3巻まではどら焼きの登場頻度は低く、また執着においては「おもち」に軍配が上がります。
なお「どら焼き」に翻弄されるドラえもんは他にも第4巻「友情カプセル」、第5巻「ドラえもんだらけ」でも確認することができます。このうち「ドラえもんだらけ」は初出が1971年なので「どら焼き」が登場しはじめた頃の作品とみてよいでしょう。
ドラえもんはおもちが大好きという事実は変わりませんが、ドラえもんの大好物=おもちという未来はやってきませんでした。それは私たちが1番知っていることです。逆にもしも『ドラえもん』という作品がなかったら、私たちは今、こうも簡単に「どら焼き」を手に入れられる環境にあったかどうか……「もしもボックス」を無駄づかいしたくなりますね。
(片野)