【インタビュー】画業65周年の水野英子先生 時代のタブー破り「恋愛マンガ」生んだ
「お見合い結婚」が当たり前の時代、少女マンガに“LOVE”を導入

――1957(昭和32)年から「少女クラブ」で連載が始まった『銀の花びら』(原作/緑川圭子)は、手塚治虫さんの『リボンの騎士』とともに、少女マンガの礎(いしずえ)になったといわれています。
水野 『リボンの騎士』は、連載1回目から夢中になって読んでいましたので、同じ掲載誌で描けることに舞い上がるような思いでした。『銀の花びら』は、「少女クラブ」の編集員だった丸山昭さんによると、『リボンの騎士』を継ぐ西洋ロマンを描ける人が、私の他にいなかったということでした。
『銀の花びら』連載が終わった翌1960(昭和35)年、私は初めての本格的オリジナル連載『星のたてごと』を開始しました。『銀の花びら』でも、兄妹の間に生まれる淡い思慕を描きましたが(本当の兄妹ではなかったので)、少女マンガを描くからには、避けて通れないテーマがあると思いました。男女のロマンスです。『星のたてごと』は、初めて本格的に恋愛を描いた作品です。
今でこそ、恋愛テーマは当たり前となっていますが、まだ当時は男女間のことについて触れてはならないという風潮があった。結婚も「お見合い」が当たり前という時代でしたが、外国の文学や映画で美しく描かれている “LOVE”を、マンガで描いていけないはずはないと思い、私はタブーを破りました。

――『星のたてごと』は、ワーグナーのオペラ『ニーベルングの指環』4部作を思わせる壮大なロマンです。
水野 私が、小学5年生の時に見た世界文化地理体系の北欧のページに、叙事詩『エッダ』の紹介がありました。北欧神話に描かれた世界の滅亡「神々のたそがれ」。神という絶対的な存在にも最後が訪れるという思想に強烈な衝撃を受けたんです。
後年、この神話をワーグナーが歌劇『ニーベルングの指環』4部作に構成していることを知り、のめり込みました。その影響で、「運命の指輪(リング)」に翻弄される男女の運命を『星のたてごと』に描いたんです。