【インタビュー】画業65周年の水野英子先生 時代のタブー破り「恋愛マンガ」生んだ
「歴史」「ロマコメ」「ロック」などの新機軸も

――1964(昭和39)年から、少女マンガにおける初めての歴史大河ロマンといわれる『白いトロイカ』を「週刊マーガレット」に描いています。本作に影響を受けたと語る、後進の少女マンガ家がたくさんいますね。
水野 私は子供の頃からロシアの文学作品、映画、バレエなどに親しんできました。特にロシア民話が持つ、異国的でロマンチックなストーリーに夢中になったんです。その一方でロシアの歴史というのは、圧政が繰り返される悲惨なものでした。しかし、叩かれても、叩かれても立ち上がる強靭な民衆たちに惹かれ、描きたいと思ったんです。おかげさまでヒット作になりました。
ところが、当時はマンガの読者は低年齢層が中心で、歴史的な内容のものなんて編集部に受け入れられなかった。何度も粘り強く頑張って、ついに連載の許可をいただいたんです。

――昭和30年代後半には、恋愛に明るく元気なコメディーを導入して「ロマンティック・コメディー」と呼ばれるジャンルを開拓。現在の少女マンガでも大人気の路線となりました。
その後、1967(昭和42)年から演劇をテーマにしたマンガ『ブロードウェイの星』を「週刊マーガレット」に連載。そして1969(昭和44)年には、初めてロック・ミュージックをマンガに描いた『ファイヤー!』を「週刊セブンティーン」でスタートしています。人気作家として確固たる地位を築いてきた水野英子さんですが、新テーマを描くにあたってファンがついてきてくれるかどうか、心配はなかったのでしょうか?
水野 躊躇することなど、一度もなかった。『ファイヤー!』連載スタート時には、それまで届いていたファンレターがプッツリと途絶えました。読者がすごいショックを受けたようです。それでも、自分のなかに芽生えたテーマを、描かずにはいられなかったんです。
それまでにも、読み切りで男性が主役の物語を描いたことはありましたが、『ファイヤー!』で初めて青年が主人公のマンガに挑戦したんです。この話で、私は初めて女性誌に青年の肉体やベッドシーンを描きました。上半身の裸体を描いただけでも編集部からクレームがきましたが、必要な描写だったからタブーを破って描きました。
――最後に、画集の見どころを教えてください。
水野 大型サイズで、全ページカラー印刷の豪華画集です。初期作品から『エリザベート』など近年の歴史作品まで、私の画業を振り返る内容となっていますので、ぜひ本画集を楽しんでいただきたいと思います。
●『画業65周年 水野英子画集 薔薇の舞踏会』(玄光社)
2020年3月30日発売、A4変型判・192ページ、定価4000円+税
※「豊島区立トキワ荘マンガミュージアム」(東京都豊島区南長崎3-9-22、南長崎花咲公園内)は、新型コロナウイルスの影響により開館を延期しています。
※取材協力/水野英子 文中一部敬称略
(メモリーバンク)