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アニメ『銀河鉄道の夜』、タイタニック号に触発された名作が引き寄せた、意外な「人物」とは?

残酷さを伴う少年時代の終わり

『銀河鉄道の夜』には、沈没船に乗っていた青年らが登場する。画像はナショナル ジオグラフィックのドキュメンタリー『ジェームズ・キャメロンと探るタイタニックの謎』(画像:FOXネットワークス)
『銀河鉄道の夜』には、沈没船に乗っていた青年らが登場する。画像はナショナル ジオグラフィックのドキュメンタリー『ジェームズ・キャメロンと探るタイタニックの謎』(画像:FOXネットワークス)

 病気の母親の世話もあって、ジョバンニ少年はあまり遊ぶことができずにいます。学校ではクラスメイトのザネリ(CV:堀絢子)たちにからかわれているジョバンニですが、カムパネルラだけは優しく接してくれます。

「銀河鉄道」に乗ったジョバンニは、カムパネルラと化石の発掘現場を見学したり、鳥捕りにもらったお菓子のような味のするサギの脚を食べたりします。カムパネルラとふたりっきりで過ごすことが、ジョバンニは楽しくて仕方ありません。軽く、BL的要素も入っています。

 そんなジョバンニとカムパネルラの間に割って入ってくることになるのが、沈んだ客船に乗っていた人間の姉弟と家庭教師の青年でした。ますむら氏のコミックでは姉弟と家庭教師も猫なのですが、アニメ版では人間になっています。温和で真面目そうな家庭教師の青年は、よく見ると人気アニメ『タッチ』(フジテレビ系)の登場キャラクター・上杉克也の面影をどことなく感じさせます。

 劇場アニメ『銀河鉄道の夜』が封切られたのが1985年7月。『タッチ』のテレビ放映が始まったのが同年4月から。杉井ギサブロー監督がどちらの作品も手掛けていたことから、家庭教師の青年は上杉克也っぽいキャラになったようです。『銀河鉄道の夜』も『タッチ』も、残酷さを伴う少年時代の終わりを描いた名作です。甲子園出場を目前にして夭折した上杉克也は、公開されたタイミングは多少前後しますが「銀河鉄道」に乗って天国へと向かったのかもしれません。

細野晴臣さんと「タイタニック号」の奇縁

 アニメ版『銀河鉄道の夜』を語る上で忘れてはならないのが、音楽を担当した細野晴臣さんの存在です。1970年代の終わりから、テクノユニット「YMO」のリーダーとして脚光を浴びた細野さんは、1983年の「YMO」散解後に劇場アニメ『銀河鉄道の夜』のサウンドトラックを手掛けることになります。シンセサイザーによる無国籍的な音楽は、叙情的かつ荘厳さも感じさせ、作品の神秘性を増幅させることに大きく貢献しています。

 細野さんが『銀河鉄道の夜』のサントラに力を注いだのには、ある理由がありました。実は細野さんのおじいさんは、「タイタニック号」に乗船していた唯一の日本人客だったのです。細野さんのおじいさんは運よく救命ボートに飛び乗ることができ、帰国できました。細野さんのおじいさんを中傷する声もあったそうですが、もし生還していなかったら細野さんのお父さんは生まれず、細野さんもこの世に誕生しなかったことになります。不思議な縁に導かれて、細野さんは『銀河鉄道の夜』に参加したのです。

 杉井ギサブロー監督は、宮沢賢治のもうひとつの代表作『グスコーブドリの伝記』を2012年に劇場アニメ化しています。こちらも、ますむら氏による猫のキャラクターたちが活躍します。また『グスコーブドリの伝記』でも、「本当の幸せ」とは何かが問われています。在宅時間の長くなったこの機会に、宮沢賢治が生み出したファンタジーの世界に触れてみてはいかがでしょうか。

(長野辰次)

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