女性と男性で能力の差はないけれど? アニメの「シナリオ打合せ」で求められるスキル【この業界の片隅で】
アニメ業界の片隅で生きる著者・おふとん犬が、業界の片隅で拾ったさまざまな話題を取り上げて解説します。第9回は、「本読み」とも呼ばれるシナリオ打ち合わせについて。創造性や技術と同じくらい求められる、とある能力についてお話します。
創造性や技術に性差はないものの…
「この手の作品は男性じゃないと書けない」「このジャンルは女性の方がうまい」という固定観念は、大きな声で言う人は少なくなったものの、いまだに根強く残っています。ですが、年々薄れつつはあるようです。
実際、表現の得手不得手に、性差はほとんどないと言って良いでしょう。大ヒット少年マンガ『鋼の錬金術師』の荒川弘先生が女性であることは、よく知られた話です。とかく「男にばかり都合の良い美少女動物園」などと陰口を叩かれる「まんがタイムきらら」の連載作家も、女性の方が多いと聞きます。男性向け成人マンガの作家も、半数近くが女性であるとも言われています。逆もまたしかりで、いわゆる女性向けコンテンツの世界で活躍する男性も多数存在します。
要するに、そのジャンルを愛してさえいれば、男性だろうが女性だろうが、クリエイティブに性別は関係ないのです。ただ、それでも「もしかすると女性の方が向いているかも」と感じる分野があります。それがシナリオです。男性よりも女性の書くシナリオの方が優れていると言うつもりはありませんし、そんな事実もありません。
問題にしたいのは、「本読み」とも呼ばれるシナリオ打ち合わせについてです。30分アニメの場合、状況によって差異は大きいものの、1回の本読みに要する時間は2~3時間といったところでしょう。この2~3時間の打ち合わせを、感情的な軋轢を最小限に抑えつつ、同じメンバーと何度も繰り返し行う必要があります。そのための協調性は、男性よりも女性の方が、幼い頃から培われているように思うのです。
クリエイターとしての自己主張やこだわりは何より大切なもので、それがなければ、アニメのような集団作業での創作は、妥協に妥協を重ねた産物に成り果ててしまいます。それでも、ベストの形で妥協するための協調性は必要です。会議メンバーの主張に丁寧に耳を傾けてそれを創作物に反映させたり、納期を守ったり必要な連絡を絶やさないことも含めた「ちゃんとしていること」は、創造性や技術と同じくらい求められる能力なのです。ある種の才能と言っていいのかもしれません。
この才能を育む文化的な土壌が、女性社会に強くあるのではないかと、シナリオ打ち合わせに出席していると感じることが多いというわけです。それが良いことなのか悪いことなのか、私には分かりませんが。