『ガンダム』の「手のひら返した無能な司令」←誤解です 劇場版では興味深い変更点も
大人になって改めて観たアニメの登場人物が、子供の頃の印象とは全く異なる、ということは、ままあるものです。『機動戦士ガンダム』の、特にベテラン軍人たちにも、そのようなキャラクターがきっと大勢いることでしょう。
「手のひらクルッの薄っぺらいヤツ」ではなかった
『機動戦士ガンダム』に登場するキャラクターのなかでも特に、軍に長く在籍する大人たちの印象は、子供の頃とはずいぶんと違うように感じられるのではないでしょうか。軍というのは時に非情の決断をするもので、そうしたとき立場と私情をきっちりわけて考え行動できるのがいわゆる「オトナ」というものかもしれません。しかしながら、子供にそれを理解するのは難しいものです。
そのようなキャラクターのひとりに、連邦軍の「ルナツー」方面を指揮する「ワッケイン司令」が挙げられるでしょう。物語の序盤、サイド7を脱出してきた「ホワイトベース」が連邦の宇宙基地であるルナツーへ到着した際、避難民を降ろすことを認めず、それどころかガンダムを没収し、ブライトたちホワイトベースクルーを軟禁までしました。分かりやすく「ヤな軍人」です。
結果、ブライトが事前に可能性を示唆していたとおり、基地はシャアの奇襲を受け、大混乱に陥りました。
とはいえ、ワッケインが「頭の固い無能」とはいい切れないのではないでしょうか。
ブライトの情報を軽視したのはマズかったものの、そのほかの行動は軍規を重視したものといえ、実は常識の範疇に収まるからです。「ホワイトベース」や「ガンダム」は連邦の秘密兵器であり、それを独断で運用したうえ、乗員たちには民間人も多いとなれば、たとえそれが人道に適い連邦にも利するとしても、「まったく勝手してくれちゃって!」と頭を抱えたくもなるでしょう。
加えて、その後のリカバリー能力に光るものがありました。シャアの襲撃により港をふさいで動けなくなった戦艦「マゼラン」を、ワッケインは自らの乗艦であるにもかかわらず、剛毅にもホワイトベースの主砲で吹き飛ばしたのです。これにより、ガンダムと交戦中だった「ザクII」も撃破し、さらにはシャアの乗艦もあわや撃沈されるところでした。シャアは驚きの声を上げつつ撤退していきます。ワッケインはこうして、自らの失点をその手で取り返したのでした。
戦闘が収束したのち、負傷していたホワイトベースのパオロ艦長が亡くなると、彼の進言を重く受け止めたワッケインは、ガンダムやホワイトベースを「彼らに任せたほうがよかろう」と、当初の考えを改めました。軍規の重要性を理解できていないと、これがとても大きな変心であることは、ちょっと理解できないかもしれません。
その反省からか、劇場版ではより分かりやすい変更が加えられていました。
地球に向かったホワイトベースを見送りつつ、ワッケインは「ジオンとの戦いがまだまだ困難を極めるという時、我々は学ぶべき人を次々と失っていく。寒い時代と思わんか」とパオロ艦長の死を悼みます。劇場版でこのセリフは「我々はシロウトまで動員していく。寒い時代とは思わんか」と変更され、彼の軍人としての立場と、個人としての人となりが、より分かりやすくなっているといえるでしょう。なおその劇場版では、ホワイトベースのためにサラミス1隻を護衛につけ、「彼らに幸運を」ともつぶやいています。
その後のワッケインがどうだったかは、きっとご存じのとおりです。
手のひら返した、というよりも、元々ワッケインは人情味あふれる有能な人物だったといえる、そのような発見が、改めて『ガンダム』を観直すときっとほかにもあることでしょう。
(マグミクス編集部)