代打で再放送の『つり球』は必見のSF(青春フィッシング)アニメ。奇想天外だが親近感も
親近感と奇想天外さこそ、作品の最大の魅力

ユキが作中で「世界が終わる時でも、俺は釣りをしていたい」と語るのは、本心からのセリフでしょう。常に楽しみと喜びをもたらしてくれる場所でありながら、得体の知れない何物かが潜む海。その海に向かって、何だって語り合える友達と肩を並べて釣りをする時間は、彼にとってかけがえのないものであるはずです。
“釣り王子”こと夏樹は、ユキに教えます。アングラー(釣り人)は自分の頭で考えるクセをつけろ、魚が何を考えているか想像してルアーを投げろ、と。ユキは教えに従うことで、フィッシングのテクニックを学んでいくだけでなく、精神的にも促されて自立していきます。海の中の魚が何を考えているか想像できるようになるにつれて、自分の心に閉じこもるだけでなく、隣にいる夏樹の気持ちだって分かるようになっていきます。
夏樹には夏樹の、ユキとは違う孤独や葛藤があります。魚の考えを想像するように、友達の心情にも想いを馳せ、正面から向き合えるようになった時こそ、ユキは変わることができるのでしょう。きらめくような恋や夢や憧れはないけれど、だからこそ親近感を覚える、それが『つり球』のドラマなのです。
これで話が終われば、ユニークな青春ドラマの佳作と言うだけで済むのですが、そうは問屋がおろしません。
監督は、同じ「ノイタミナ枠」で放映され、独創的な映像表現でアニメファンをアッと驚かせた『化け猫』の中村健治氏。『つり球』の物語も、セオリーやパターンを軽々と飛び越え、奇想天外かつ変幻自在に転がっていきます。ハルの海釣りには、実は楽しみ以外の合理的な目的があります。見るからに怪しいアキラ・アガルカール・山田は、これまた怪しいある組織とつながりがあり……。
そのハルと山田の心情も最後までおろそかにせず描き切っているのは、『スイートプリキュア♪』や『約束のネバーランド』でも知られるシリーズ構成・大野敏哉氏の、匠の技と言うべきでしょうか。キャラクターデザインは、『デジモンアドベンチャー tri.』などで活躍し、『センコロール』では気鋭のアニメーション作家としても知られる宇木敦哉氏。爽やかで洗練された絵作りは、見る者の心を青春時代の夏に連れていってくれます。
溺れる心を救いながら、思わぬ楽しみも釣り上げられる、特に釣り好きの方でなくともオススメしたい作品です。
(香椎 葉平)
※TVアニメ『つり球』(再放送)は、毎週木曜日24:55~フジテレビ「ノイタミナ」枠などで放送中。TVアニメ『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』は2020年7月16日(木)より第1話から同枠にて放送予定です。




