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『あしたのジョー』アニメ化50年。原作と少し違った「燃え尽き」描写の意味は?

ジョーが世界戦に挑んだ『あしたのジョー2』

『あしたのジョー』の矢吹丈がラストで真っ白に燃え尽きたシーンのイラスト (C)高森朝雄・ちばてつや/講談社
『あしたのジョー』の矢吹丈がラストで真っ白に燃え尽きたシーンのイラスト (C)高森朝雄・ちばてつや/講談社

 TVアニメ版『あしたのジョー』は、力石がジョーとの対戦直後に亡くなるという衝撃的なエピソードの後、ドサ回りを経たジョーがカーロス・リベラ(CV:広川太一郎)と闘うことで完全復活を遂げるところで終わりました(1971年9月)。原作は途中休載もあり、TVアニメ版が連載の内容に追いついてしまったための措置でした。

 原作は1973年5月に完結。それから7年後となる1980年10月に、TVアニメ『あしたのジョー2』(日本テレビ系)が放送されることになります。

 出﨑監督が再び演出を手掛けた『あしたのジョー2』では、原作の最終回までがきっちりと描かれました。劇場版『エースをねらえ!』(1979年)などで高い評価を得た出﨑監督は、すでに独特な演出スタイルを完成させていました。止め絵や入射光に加え、キラキラと輝く水面、画面の多分割など、多彩な演出手腕を見せています。

『あしたのジョー2』で見逃せないのは、やはり最終回です。ジョーはついに世界王者ホセ・メンドーサ(CV:宮本義人)とのタイトル戦に挑み、最終ラウンドまで激しい攻防を繰り広げます。真っ白に燃え尽きたジョーは、コーナーの椅子に座り込み、身動きしません。原作どおりの展開ですが、『あしたのジョー2』ではこのシーンに、ジョーがドヤ街に現れた時と同じように放浪している姿を挿入しています。

 ジョーが放浪している姿は、ジョーがかつての自分を回想しているのか、それとも試合を終えたジョーが再び旅に出たのか、どちらとも解釈できるラストシーンとなっています。原作で描かれた「真っ白に燃え尽きた」ジョーは“死んだ”という解釈が定説となっていますが、リングという檻の中で青春を過ごしたジョーを、出﨑監督は最後に自由な身に戻してあげたように思えます。

 原作者の梶原一騎氏は10代の多感な時期を感化院で過ごし、愛情に飢えていたと言われています。ちばてつや氏は旧・満州国(現在の中国東北地方)で育ち、終戦と同時に故郷を喪失しています。『あしたのジョー』に惚れ込み、アニメ化の企画を立ち上げた出﨑監督は小学1年生のときに父親を病気で失ったそうです。テーマ曲を作詞し、力石の葬儀で弔辞を読んだ寺山修司氏も、9歳の時に父親を亡くしています。

 身寄りのないジョーはいつも満たされぬ想いを抱き、その欠落感を埋めてくれる相手を求めて、ボクシングに熱中していたように感じます。最終回をめぐって、ジョーは死んだのか生きているのかが議論の的になってきましたが、もともとジョーは、生と死という概念を超越したフィクション上のキャラクターです。

 ジョーは生きていて、今も世界のどこかを放浪し続けている。出﨑監督が演出した『あしたのジョー』『あしたのジョー2』を観ていると、そんな気がしてくるのです。

(長野辰次)

【画像】ジョーをとりまくライバルたち。忘れられないヒロインも(6枚)

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