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『うしおととら』藤田和日郎とヤマハ開発者が語る、「白面の者」とバイク「R6」の誕生秘話

1990年代に連載された少年マンガの名作『うしおととら』に登場し、最大の悪役として読者に強い印象を残した「白面の者」を、「バイクのデザインの参考にさせていただきました」ーーヤマハ発動機の開発者から作者・藤田和日郎さんに届いた手紙がきっかけで対談が実現。マンガの作品づくりとバイクのものづくりには、相通ずる思いがありました。

大きな壁を超えるため受け継いだ、白面の「眼」

白面の者をモチーフとした「YZF-R6」の「眼」を説明する、ヤマハ発動機の平野啓典さん(左)と、『うしおととら』作者の藤田和日郎さん(右)(小林俊樹撮影)
白面の者をモチーフとした「YZF-R6」の「眼」を説明する、ヤマハ発動機の平野啓典さん(左)と、『うしおととら』作者の藤田和日郎さん(右)(小林俊樹撮影)

 少年マンガの名作『うしおととら』最大の悪役キャラ「白面の者」が、ヤマハのスーパースポーツバイク「YZF-R6」のデザインモチーフに取り入れられたことが2019年春に明らかになり、バイクファン、マンガファンの間で話題となりました。

 この出来事をきっかけとして、もともと「バイクが好き」だったという藤田和日郎先生と、「YZF-R6」(以下、R6)の開発を主導した、ヤマハ発動機・平野啓典さんの対談が実現。「R6」の実物を見ながら、白面の者とR6の誕生秘話、そして、互いのモノづくり、作品づくりについて語り合ってもらいました。

* * *

――「白面の者」のモチーフが取り入れられた「YZF-R6」(以下、R6)は、2017年に登場した海外向けモデルで、前方のポジションライトが白面の者の「眼」を彷彿させます。どのような経緯で、白面の者がデザインに取り入れられたのでしょうか?

平野啓典さん(以下敬称略) R6の先代モデルは「死ぬほどかっこいい」デザインと高く評価されていて、社内にも「デザインは変えなくていいよ」という声があったほどでした。私たち開発メンバーは逆にそれで火がついて、10年ぶりにモデルチェンジするR6を「必ず先代を超えるデザインにしよう」と意気込んでいました。

「凄みをまとった未来感」をキーワードに、生命感のあるフェイスデザインを目指してスケッチをいくつも起こしましたが、どうしても既存の製品に近いものになってしまう。そうして追い詰められていった末に、担当デザイナーがスケッチの「眼」の部分にふわっと描いた線ーーその線を見て、白面の者が思い浮かびました。

 藤田和日郎先生が『うしおととら』で描いた、白面の者の凄み。これをモチーフにしたら、今までにないものを生み出せるのではないか? と話し合い、R6の眼に取り入れることにしたのです。

藤田和日郎さん(以下敬称略) 実物を間近で見て良くわかったんですが、R6の眼のラインは、「まさに自分が描いたラインだ!」と思いました。白面の眼も基本は三白眼なんだけど、僕が描く眼は下側のラインがふくらむ位置に特徴がある。アニメ化の際にここがうまく再現できなくてやりとりしたことがあったんですが、R6の眼は白面をじっくり観察して作られたんだな、と感じます。

『うしおととら』の白面の者の眼(上)と、「YZF-R6」のポジションライト(下) (C)藤田和日郎/小学館
『うしおととら』の白面の者の眼(上)と、「YZF-R6」のポジションライト(下) (C)藤田和日郎/小学館

平野 実は、平面に描かれた白面の眼を3次元で再現するのには苦労もありました。うねるような生命感が出るようにと、試作品をいくつも作って検証しながら、LEDライトの形や構造を作り込んでいきました。

藤田 もともと白面の眼は、作家さんが骨格から眼球まで全て手作りする「生き人形」を参考にしているんです。「なんでこんなに眼力があるんだろう」と観察して描いたその眼力が受け継がれて、いまR6の眼になっているのは感慨深いです。

 自分のような漫画家は、ありったけの感情や主観を込めて作品を描いているけれど、バイクの設計には感情とかはなくて、空力特性や細部の機能といった「合理的なもの」をミリ単位で作っているものだと思っていました。今回、バイクを作る平野さんたちも「死ぬほどかっこいい」とか、「凄みをまとった未来感」とか、感情的で主観的なものも大切にしながら花開かせていくんだとわかって、とても嬉しいです。

【画像】「これは自分が描いた眼だ!」藤田和日郎さん自ら明かす、白面の「眼」の秘密(11枚)

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